第10話 階段をかける

「この階じゃない、上だ」

「マリ、異臭の検知を最大にしていますが、今の所、どこにも異常は見当たりませんが、私も完璧ではありません、調査をお願いします」

「ええ」そう言いながらもマリは駆け足で階段に向かった。そうしながら、今度は細かな事をミントと確認しながら行動した。

「階段に行くとほとんど匂いはしない、空気の流れかしら」

「それもあるでしょう、吹き抜けですから、下の方にたまりやすいと思います」

「全ての階を調べなきゃ」

「では私も、もう一度二階を検査します」

「ありがとうミント」

二階に上がったマリは呼吸を一旦整えて、今度はゆっくりと本棚の間を歩き出した。クンクンと鼻で匂いを嗅ぎ、目は左右を見た。その動物を「見つけることが出来れば」と思ったからだ。この図書館には最低限のライトしかない。

それは本を傷めないため、窓からの光も、決して本に直接当たらないように設計されている。一階を見回るのに、数十分かかった。

「この階ではないみたい、ミント」「はい、では次に」

 三階に上がる階段を幼い頃のように段ぬかしで上がり始め、小さな踊り場で、「あ」と小さな声をマリはあげた。

「どうしました、マリ」

「この階、かな、匂いがきつい」

「わかりました、もう一度検知を」「お願いミント」

そう言って、マリは今度はゆっくり、足音すらしないように登った。そして階段から徐々に三階の部分が見え始め、その床が目に入った途端だった。

「あ! 何か動いた!! 多分あれ、ネズミじゃないかな!! 」

「監視カメラで確認します。 そう・・です、ネズミです、マリ! お手柄です!! 」

「ああ・・・・ネズミかあ・・・・」

 一安心した声をマリは出し、しばらく階段の手すりにちょっともたれかかった。

ネズミは宇宙時代も繁栄している。家の中、自然の中、宇宙船の中。この図書館にも何年かに一度は出てくる。歴代の巫女で「ネズミと格闘」しなかった者はいない。ネズミは最悪本をかじったりするのだから、彼女達の天敵の一つではある。

「とにかく居場所を突き止めないと、最悪本を避難させて洗浄室に入れないといけないかしら」

「お疲れでしょうが、マリ、お願いします。自動ワゴンを後で用意します」

図書館内にはもちろんエレベーターも設置されている。このような場合を想定しての事である。

「私の家も、ネズミが多かったから。可愛いんだけどね・・・」

「侵入防止の網がかじられてしまったのかもしれませんね、寒い日が続きましたから、建物の中に入りたかったのでしょう、マリ、一つ良いですか? 」

「なにかしら? 」

「あなたがあんなに早く階段を登ることが出来るとは思いませんでした。

しかも軽やかに」

ミントも落ち着いた様だった。マリにとって図書館のネズミは初体験だが、手順はさち先生からもミントからも詳しく教えてもらっている。

 しかし、三階に登ってきた瞬間、何か違った感じがした。

どこかしら「冷たい」といのか。だがそれはここが大きな建物で、冬であるからだと、マリは思おうとした。だがその一方、この感覚をどこかで経験したことがあった。

幼い頃に「のけ者」にされた時、急にこしらえられた粗雑な壁を、打ち破ることも出来ずに呆然と立ち尽くすしかなかった、あの時の感覚に似ていた。

「マリ、どうかしましたか? 」

「あ、ごめんなさい、ミント、やっぱりこのすぐ側の匂いが・・・」

嗅覚に神経を集中しようとしていたその時、

マリの耳に声が聞こえた。

それも複数の

大勢の人の、

色々な年齢の声だった。


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