第9話 生きとし生けるもの

 二重の扉を開け、マリは図書館へと入った。建物は五階建て、地下もあり、そこには「日に晒してはいけないもの」が眠っている。

五階建てなのだが、完全に吹き抜けの構造になっている。風通しと、盗難防止、つまり監視しやすさ、のためでもある。地球時代の図書館をベースに建物がデザインされているのは、九割以上地球時代の本だからである。

何度か建て替えられてはいるが、木の本棚は、使えるものはなるだけ使っている。なぜなら、死しても尚と言うべきか、木はやはり適度に湿気を吸い、放出してくれる、最高の素材であるからだ。

そして吹き抜け構造のため、各階にある手すりには、美しい木彫が施されている。階によって形は微妙に違い、遠目からはわからないため、年に一度に来る人達は、それに気が付き喜ぶ人が多い。

 窓は最小限だがある。時折、換気のために開けるのもマリの役目の一つである。そこから、朝、夕の柔らかな日差しが図書館に入る。それが各階の個性のように思えて、マリはこの時間の図書館が一番美しいと感じている。神聖にさえ思えるこの光景を、多くの人に見て欲しいと思うのだが、どうしてもセキュリティーの関係上、この時間一般人の出入りは難しい。

 今日も、夕暮れの、全ての本を同じ色に見せる様な光の中、

出来るだけゆっくりと、マリはカッパのフードをとった。髪の毛一本、出来れば落としたくはなかったためである。そして目を閉じた。その間、図書館のミントは静寂を保ったままだった。自分を見守り、支えてくれるようで、とても有り難いと思ったが、その気持ちすらある種滅却をして、何かを感じ取ろうとしていた。

違和感、予感、その原因。目という極端に多い情報量は、あるかもしれない小さな糸口を、隠してしまうように思えた。

ほんの数分そうしていただろうか、パッと見開かれたマリの目と同時に


「何か・・・匂いがする。嗅いだことのある匂い、生き物の・・・」

「生き物の匂い、ですか? マリ 」


そんなはずは無いという、ミントの声だった。



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