第7話 禍福

 一般利用の出来る宇宙図書館には、もちろん何人もの司書が働いている。そして巫女の存在を知ってはいるが、公言してはならないし、もし巫女の姿を見ただけでも、最悪失職となってしまう。つまり「見たい」と思わなければ、その姿を確認することも出来ないのだ。守衛室のロボットもミントの力で一次停止、監視カメラも同様、マリが巫女専用の通路に入るまでは、職員が出入りするドアにはロックがかかる。

「ミント、今から帰ります、お願いします」

「ハイ、マリ」

ここを使う頻度はとても少なく、ほんの数分なので、職員のほとんどは気が付かない。職員専用通路を通り過ぎ、特別な階段がある扉をミントが開けて、地下の通路へと向かう。コンクリートがむき出しの全く飾り気のない場所、あるのは等間隔にある明かりだけだった。

その間、マリは無言で、不安でもあった。それは先生と別れた後すぐに心をこの言葉が覆ったからだ。

「禍福」

今日は本当に楽しかった。今までの中でこんなに高価な物を一度に買ったことはなかった。先生と普通に話をし、思いもよらなかった事でほめられたり、バイキング形式の美味しい食事と、とにかく嬉しいことでいっぱいだった。もしかしたら今までの中で「一番素敵な日」だと思えた。

そうであったが故に

「こんなに良いことがあったのだから、逆の事が起こるかもしれない」

すぐにその考えが、体の隅々、指先、つま先まで行き渡った。しかしそれは今日の楽しさを打ち消すと言う感じではなく、その上にぴったりと層のように張り付いたものの様に感じられた。

 そして司書達が、本丸、神殿と呼ぶ場所へ戻ってからのマリも、いつもとは全く違った。なるべくほこりの出ないようにそれこそ、昔の姫君のような穏やかに歩行ではなく、大きな荷物をガサガサと音を立てながら、扉も勢いよく、大きく開けた。

 その動作、表情に驚いたのはもちろんミントであった。


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