第5話 初めての再会

 開店直前の本屋の前には、予想以上に人がいたので、ちょっとマリは驚いた。だがその中のさち先生はすぐにわかった。二十人弱の人だかりから、ワザと気配を消すような感じで立っている細身の女性は、退職した教師か、相当のキャリアウーマンだったとしか、他の人も想像が向かないように思えた。服装は決して華美ではなく、バックも古くから使い慣れているもので、マリも見たことがある。事実を知っている自分を可能な限り差し引いてみても、彼女は他の人とは明らかに違う。

そしてすぐに、マリは自分自身がそう見えていることに対する懸念が先走ってしまった。「私がそう見えているのならば、ばれてしまうかも」

だが、そんなマリの不安の中、走ってきたのはさち先生で、彼女はあっという間にマリの所にやって来て

「マリ! 久しぶりね! 」と抱きついた。

驚いたのはマリの方だ。マリの星も先生の星もいわゆる「ハグ」の習慣は無いに等しい。冷静沈着なさち先生の初めて見る姿に戸惑う顔は、他の人から見れば「久しぶりに会った孫に興奮している祖母と、自分を子ども扱いしている風の祖母に、困った表情を見せている孫」としか取りようはなく、数人は穏やかにクスリと笑った。そんな中シャッターが開き、他の人はそそくさと店に入っていった。

「先生、すいません、ギリギリになって」

「いいのよ、まあ綺麗になって、マリ。思わず抱きついてしまったわ、ごめんなさい」

「いえ、何だか・・・」

「何だか・・・・何かしら」

「先生若返ったみたいです」

「そう? 体調も戻って、仕事から解放されたからかしら。まず中にある本屋の横のカフェに行きましょうか、温かい物が飲みたいわ」

「はい、先生」

「今日は全部私がおごるからね! 」

見たことの無い、楽しげなさち先生の笑顔だった。そういえば外でこうやって会うのは三回目、巫女になってからは初めてだった。


 だが、やはりさち先生は全てを深く考えていた。今朝のカフェは極端に人が少ない。なぜなら今日ちょっと離れたところに新規オープンするところがあり、格安でコーヒーなどを提供するという。ほとんどの人がそちらに行っているに違いないのだ。二人は飲み物を飲みながら話し始めた。

「マリ、本当にありがとう。うれしいわ、こんな風に誘ってくれて」

「私も安心しました、きっとミント・・・も喜ぶと思います」

「クスクス、ミーちゃんって呼ばないの? 」

「ご存じなんですか? 私が言うつもりだったのに」

「私もマリと会ったら若返る気がするわ。でもマリは一年前とは別人のようよ。

ちょっと心配するくらい大人になってしまったかな。かなり年上に見えるから、気をつけてね、誘拐されたら大変」

「そんなことは無いです、大袈裟です」

「だめよ、自分の身は自分で守らなければ」

ずっとニコニコとしている。そうなのだ、これがさち先生の「仕事をしていないときの姿」なのだとマリはわかった。自分が会っていたのは14代目の巫女のさちであり、ミントは絶対に口には出さないであろうが、噂では「もっとも有能で優秀な巫女」と言われている人だったのだと。

 その人が今は重荷から解放されたように、楽しげにしているのが、マリにはとても嬉しく感じられた。


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