第4話 最後の穏やかな朝


「おはよう、マリ。さちに早速連絡したら、今日が都合が良いとのことです。一日ゆっくりと過ごされてください。夕食は「ミントと食べた方が良いでしょうから」

とのことです」

「本当? 先生らしいわ。良いかしら私突然の休暇で」

「マリは本当に真面目です。いわゆる「有給休暇」は沢山残っていますよ。消化をしてください」

「ミント・・・あれれ、ミーちゃんも行く? 」

「フフフ、いえいえ、私なしで色々お話ししたいこともあるでしょうから」

「そんなことは無いわ。あ、時間は? 」

「本屋の開店時間と同時です、さあ、ちょっと急ぎましょうか」

「ええ! 」

着替えて食事をすると

「マリ、新しい服ですか? とても似合っていますよ」

最近流行しているの「龍星」の民族衣装をモチーフにしたもので、幅の狭い布を斜め方向に巻いたようなスカートだった。小さな花柄で、若い女の子には大人気だった。

「今まで私流行の服ってあんまり好きじゃなかったし、そんな買えなかったけど、ちょっと欲しくて」

「さちも喜ぶでしょう。彼女はそれこそ龍星の民族衣装を持っていましたよ」

「そうなの!! 知らなかった!! 」

「では食事を終えたら、私が出口まで誘導します」

「いつもありがとう、ミント」


 図書館には庭もある。実はトゲのある植物が不法侵入防止のためにぐるりと植えられている。だが小型野生動物には絶好の住処のようで、上手く通路と巣を作っている。歴代の巫女もそこを通って、宇宙図書館の庭へと出る。

その際、洋服が汚れないように薄手のカッパを着て最悪「匍匐前進」

の箇所もある。今日のマリもそうだった。

「あれ? このカッパ穴がもう開いてる。 」

「買い物する物が増えましたね、マリ。この前見た最新のもがよいのではないですか。さちと一緒なら買っても変じゃないでしょう。祖母が孫にプレゼントしている感じになりますから」

「そうね、普通のお小遣いの額じゃ変えないものね」

「マリも、安物買いの銭失いを卒業しましょう、カッパは一番使う物なのですから」

「本当にそうね、製造メーカーにレポートが書けそう」

「マリなら出来ますよ、ちょっと急いでください、庭師ロボットが来ます、あれは古い型なのであなたのために妨害電波を出すと最悪壊れかねません」

「いけない、ロボットの命がかかっている、匍匐前進も結構上達したかな」

「素晴らしいですよ、マリ」


もちろん家からセキュリティーを何度か通って図書館に潜り込む事も出来るのだが、それには来館者のいない時間を縫うこととなるため、待たなければいけない時間が発生する。また朝早く、十代の女の子がこの図書館にいることは珍しいことなので、勘のいい人なら「巫女かも」と思うかもしれない。必然的にマリはこの自然通路を使う回数が圧倒的に多い。

「マリ、無事抜けたようですね」

「ありがとう、ミーちゃん。じゃあ行ってきます」

ペンダント型の通信機から音は消えた。マリは人がいないのを確認してさっとカッパを脱ぎバッグにしまい、庭にある大きな木の裏で一休みすることにした。水分を補給し、それが終わると

「いけない、髪の毛とかちゃんとしとかないと。さち先生そこが極端に厳しいんだよね。職場には誰もいないのに」

口紅は好きではないので、手鏡をみながらほんのちょっとだけ色のついたリップクリームを塗ると、自分でも驚くほど感じが違って見えた。

「ちょっと・・・可愛くなったかな・・・」


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