第2話 宇宙一の図書館
この宇宙一の図書館を入ってすぐの所にトイレがあるのは、利用客の事を考えていることと、「盗難防止」の目的であることは、明らかだ。
ここにあるのは紛れもない「本」である。しかし、全てがレプリカで、古紙を使った物もあればそうでないものもある。デジタル状態でどこにいても閲覧は可能なのであるが、やはり研究する人間にとっては「本」の状態が一番効率がよいのだ。だがここに入るには様々な制限がある、予約、目的、そして過剰なまでのカメラに対する本人の承諾書まで。つまりトイレにまで監視カメラが設置されている。仕方が無い、レプリカの小型の本にまで相当な値段がつくのだから。
夜の9時までの開館なので、人が沢山いる。あまり広くない中央ロビーには椅子があって休憩も出来るので、水筒を飲んでいる人もいる。水の自動販売機があるので、コップか入れ物かを選べる。珍しいがマリくらいの年齢の子もいる。本当に本が好きか、他の物が好きで独自の研究をしているのか、長期的な休みを使ってここに来る家族もいる。
マリは女子トイレに向かった。八つある内の一つは閉まったままだったので、すぐさまトイレを出て、ロビーに向かった。そして数分後、一人の女性がトイレ方向から来るのと入れ替わるように、ちょっと駆け足でトイレに向かった。
そしてトイレが左右に並んだ、一番奥の壁を一定のリズムで叩いた。すると、床がスッと開いた。しかし、そこにはまた別の床、だが後すぐに小さな音がして何が動き、人一人入れる程の小さなスペースができた。
マリは急いでその中に入り、四角い座椅子に座った。すると床が戻るのと同時に、椅子はスーっと動き始めた。
「ヤレヤレ、さち先生もこの椅子が嫌だって仰っていたけど、しょうが無いか。
回転して元に戻って床を支えないといけないしね」
一分ほどの、今はマリ専用の通路。他の方法もいくつかあるが、これが一番早い、だが、人に見られてはいけないので図書館の利用者が少ない日時を選ばなければいけない。万が一見られた場合は、最悪お役御免である。
「どうしようかな・・・・先生誘ってみようかな」
小さなライトの中、あの栞のことを考えてながら、彼女は家兼職場へと帰って行った。夜中で見えないが、本当に本物の本の保管庫は、王宮のような外観と広さで、中身は最新の空調安全管理システムが施された場所。年に一度だけ抽選で一般公開されている。
しかし、彼女はこの場所にたった一人で住み、管理をしなければならず、現在そうしている。
「図書館の巫女」
ちまたではそう呼ばれている仕事で、彼女で15代目。血族ではなく、先代が次の候補者を選ぶ事になっている。つまりマリが「さち先生」と呼ぶ女性がそうであった。
「この装置私もあんまり好きじゃないけれど、でも作ってくれた人には感謝だわ。だって家が明るいから」
マリの目には明るい四角の光が見えた。椅子は徐々に速度を落としながらスロープを上っていった。入り口は全くの秘密だが、出口はトンネルのようになっているのだ。
「さて、ただいま! 」まるでロボットのパイロットのように素早く降りて明るく挨拶した。そして反対に椅子は元の場所へと戻っていった。人を乗せていない方が早いと言わんばかりに。
ここは倉庫、掃除用具や工具などが置いてある。全て彼女が使う物だ。
その扉を開け、廊下に出た。ひんやりとした大理石の廊下にクッション性の靴底が立てる小さな音が響いた。
この建物の中は全くの無音、夜中は特別に暑い日でなければエアコンも作動せず、窓を開けなければ鳥や虫の声も届かない。
だが建物はまさに王宮で、図書館部分とそっくりな作りとなっている。室内には立派な額縁を持った絵が飾られ(総司令部所有の本物の場合もあるが、レプリカの場合もある。この点だけはマリにもわからない)壁は漆喰で美しく塗られ、所々彫り込み模様もある。だがこの模様の部分にほこりがたまってしまうのがマリの悩みの種だった。まず人が来ないはずなのに、不思議とそうなるのだ。そしてその中の一部屋、比較的小さな扉を開けマリは入って行った。
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