キラメキ
思い出した。かつて今から何十年も前、たった一昼夜だけ出会った、異世界の少女。アザレア。そうだ、あのときも確かに、月の数がおかしくなったのだった。
「アザレアは……アザレアは、今どうしているんだ」
娘がいぶかしむ。
「ちょっと父さん。ネーブルのお母さんのことはいま関係ないでしょ。わたしがわたしの彼氏として紹介しているんだから。ちょっと」
「すまん、待ってくれ。大事なことなんだ」
「おれは天地を越える旅の末に、ここへやってきました。母アザレアとは、もう久しく連絡を取ってはいませんが、既に高齢で、旅立ったときには既に病篤く、おそらくは……」
「そうだな。私も、こんなに年を取ってしまったからな」
深く慨嘆する。そうか。もう、会えることもないか。そう知る。
「それから。実は、月をもとに戻す方法が、分かったのです。まず、おれがこちらの世界において――」
話を聞く。どうやら、今回もまた、世界はなんとかなるようだった。だが、自分が関わるべきことはもうない。あとは、これからを担う世代の問題だ。それだけは分かった。
「というわけですので」
「うん?」
「おれは、ハルを自分の世界へと連れて帰らなければならない。そのお許しをいただきに参りました」
「ああ……」
「ちょっとネーブル。だから言ったでしょ、日本語ではこういう場合『お嬢さんを僕に下さい』って言うの。そういう作法なの」
「いいよ、そんなことは。ネーブル君、すべては任せる。いいようにしてくれ。そして娘のことを、頼む」
「はい。ありがとうございます」
娘よ。そして、娘を攫って行くわが息子よ。君たちの世界は、どんなにきらめていることだろうか。歳月は長く、人生は短い。どうか、それぞれの一日を大切に生きてくれと。そう願わずにはおられなかった。
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