8/1② 弔辞


「と、とりあえずは中止!一華ワタシが葬儀に潜り込んで様子を見てくるから、キミは待機してて!」


 畜生!皆川賢人オレは、洋介の葬儀にすら出席出来ない……お別れする事すら出来ないのか……

 オレは、改めて皆川賢人みなかわけんとを……自分を恨んだ。


「この度は、お悔やみ申し上げます……」


 カァァァッ!

 出た〜!

 何でこんなに暗いの?何で泣いてんの?たかが人ひとり死んだくらいで。

 この白と黒のストライプ……鯨幕くじらまくだっけ?ネーミングセンス無さ過ぎでしょ?

 あぁ、嫌だ嫌だ、この雰囲気……もっと楽しく生きましょうよ?

 ……ブツブツ


「賢人君、賢人君、次書いて……」

「え?」


 おおっ!芳名帳ですかぁ!

 こりゃラッキー!

 どれどれ……


花房はなぶさ……響子きょうこね……」

「え?賢人君、今呼んだ?」

「え?!いや、違うんだ!字が……綺麗だな……って」

「そかっ」


 あっぶねぇっ!

 声に出てた……?!


「さあ、斎場に入ろう」


 おいおい、パイプ椅子かよ!

 いやぁ、参ったな。

 長時間耐えられるかなぁ……あーぁ。


「け、賢人君……欠伸あくびはちょっと……ね?」


 あ、また油断しました……


「ご、ごめん!全然眠れてないんだ……本当ごめん」

「そか、そうだよね……私こそごめんなさい」


 おっと!そんな可愛いお手々ててでギュッとされたら興奮するじゃないかぁ。


 あぁ、……!


「皆川君……」

「え……?」


 誰だ、このオバサン?


「来てくれてありがとうね。最後まで洋介と一緒に居てくれて……」


 あー、洋介君の母親ですねぇ。


「いえ、そんな……ボ、オレのせいでこんな事に。本当にすみません!」

「そんな事は無い!皆川君には感謝してるのよ。それでね、最後のお願い聞いて貰えないかな?」


 な、何だよ……なんか面倒くさそうな予感。


「皆川君にをお願いしたいの。洋介にお別れの言葉を掛けては貰えないかな?」


 ちょ、弔辞ぃ!無理に決まってるでしょ?


「い、いやオレなんかが……そんな」

「賢人君、洋介君もきっと喜ぶよ」


 花房響子……なんて事を言うんだい?

 まあ、いい。どうせ座っているだけも疲れるしね。


「分かりました。オレで良かったら……」


 洋介の母は、目を潤ませながらも嬉しそうに微笑んだ。


 式は淡々と進んだ。


「それでは、皆川賢人様……」


 賢人(阿久津)は、席を立ち親族や参列者に一礼した。

 そして、南洋介の遺影に向かい白紙の弔辞を読み上げた。


「洋介君……いや、いつものように洋介と呼ばせて下さい。洋介、お前は親友であり、そして兄のように思っています。軟弱で、クズで、インスタントコーヒーひとつもまともに作れないようなオレを、いつも傍で見守ってくれていたね。オレは、こんなクソな自分が大嫌いだけど、隣にいる洋介の温かい笑顔を見ると、何故か自分を好きになれたんだ……」


 賢人(阿久津)の滑稽こっけいな弔辞に、クスリとする参列者もいたが、すすり泣く声も少なくなかった……


 賢人(阿久津)の弔辞は続く……


「洋介が亡くなった日、オレはキミの隣にいました。オレが、キミをキャンプなんかに誘わなければ、こんな事にはならなかった。本当に後悔している。あの男が、突然飛び出して来てオレにナイフを振りかざした。洋介は、オレを咄嗟とっさかばい……そして、そして……首の頸動脈けいどうみゃくがバッサリと切れましたね。勢いよく噴き出した血は、タープにまで飛び散ったよね。そして、その後はまるでチョコレートフォンデュのように、首からドロドロと溢れ出……」



 ザワザワ……


 ザワ……ザワザワ……



 あれ?ひょっとしてボク、何か変な事言っちゃった……かな?

 参ったな……仕方ない、取り乱した様子で泣き崩れるか。


「うわあああぁぁぁん!洋ぉ介ぇぇえ!!許してくれぇ!オレはなんて不甲斐ないんだ!ダメだ……ダメなんだ、こんなオレが生きてちゃダメなんだ!洋介……今くぞ。オレも今からくからぁ!うわあああぁぁぁっ!!」


 気を取り乱した賢人(阿久津)は、斎場のスタッフや、洋介の父親になだめられ、その場を後にした。


 そんな賢人は、参列者の同情を誘い、コトは大きくならずに収まった。


 葬儀の後、洋介の母親は急に無理なお願いをして申し訳無かったと、賢人に謝罪した。


 キャハッ……楽勝♪

























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