7/31⑤ 一華、呆れる……

 7月31日21:17


 一華いちか皆川賢人オレは、山を降りて街へと戻っていた。

 その足で、洋介の通夜が行われている斎場へ行き、駐車場に身を隠していた。


「一華……阿久津蓮也あくつれんやは本当に来ているのか?どうせお通夜なんて興味無いだろ?」

「あのね、阿久津は今なの。身勝手な行動を取るワケ無いでしょ?」


 一華は、呆れた様子でオレの顔を見上げた。

 確かに一華の言う通りだ。

 オレは、まだ自分の容姿が阿久津蓮也だという現実を、受け入れる事が出来ていなかった。


「なぁ、どうする?出て来たところを捕まえるか?」

「ここからキミの家はどれくらい?」

「まあ、歩いて10分くらい……どうして?」

「て事は、阿久津は歩きで来てるはず。斎場と家の経路で待ち伏せしましょう」

「なるほど!とりあえず奴が来ているか様子見てくる!」


 一華は、一歩踏み出したオレの袖口を引っ張り、しかめっ面でオレを見た。


「キミ、本当におバカね?その容姿で行ったら斎場が大混乱だわ!ワタシが行ってくる。ちょうど制服だしね。キミはココで待ってて!」


 一華は、まるで子供をあやす母親のようにして、一人斎場へと向かった。

 結構な人数ね……探すより聞いた方が早いか。


「ねぇ、皆川君見てない?」

「え?ああ、アイツならさっき帰ったよ」

「帰った……?どうして?」

「いや、さっきね……云々」

「そうだったんだ?ありがとっ」

「お、おう……」

(こんな綺麗な女子、ウチの学校にいたっけな?)


 一華は、ものの数分で戻って来た。


「いたのか?阿久津は……」


 一華は、首を横に振り状況を話し始めた。


「立嶋って男子知ってる?どうやらその人と揉めて帰ったらしいの……」

「た、立嶋か!空手部の仲間で、洋介と仲が良かった。揉めたって、何?」


 一華は、一瞬戸惑いを見せた。しかし……


「隠しても仕方ないし、ハッキリ言うよ。皆川君がビビらなければ、最悪の事態は避けられたのでは?……って」


 オレは、立嶋の言葉に何ひとつ返す言葉は無い。

 彼の言う通りだ。全ては、オレが招いた事……洋介を殺したのは、オレだ。


「ねぇキミ?全部オレのせいだ……とか、つまらない事考えてるでしょ?そんな暇は無い。執拗しつこいようだけど、キミはこれ以上犠牲者を出さない事に尽力して!」


 一華は、何でもお見通しだ。もしかして、心が読める能力者とか……?

 まあ、いい。彼女の言う通りだ。

 オレは、身の回りの人間を阿久津にやられるワケにはいかない!

 そして、カラダも取り戻す!

 反省するのは、全てが終わってからだ!


「一華、家へ行ってみよう!」


 彼女は、少しだけ微笑むと力強く頷いた。


 7月31日21:43


「ここがオレの家だ。……あっ!」

「何?」

「いない……部屋の灯りが付いてない。一体どこで何してんだ?どうする?ここで待ち伏せるか?」

「……いや、住宅街で接触して大声でも出されたら、困るのはワタシ達の方。残念だけど、今日は諦めましょう。明日の作戦を練らなきゃ」


 家から離れたオレ達は、繁華街に来ていた。

 この時間でも、まだ沢山の人々で賑わっている。


「ワタシは買い物してくるから、キミはビジネスホテルを予約してて。はい、これワタシのスマホ使って」


 一華のスマホケースは、某人気キャラクターの耳が付いた可愛いモノだった。何か、イメージと違って少し可笑しかった。


「てか、未成年二人だけでホテルの予約取れ無いだろ?」

「あのさ……いい加減慣れてよね。キミは今、三十路ミソジの凶悪犯だから」


 一華は、呆れ……いや、プチギレで人混みへと消えて行った。

 オレは、ショーウィンドウに写る自分の顔を見て、ひとつため息をついた。

 一華は、食べ物の他にキャップ、眼鏡、マスクを買ってきてくれた。

 一瞬、このセットじゃ不審者だろと突っ込みかけたか、今のご時世マスクは珍しくもないか。

 オレ達は、最寄り駅近くのビジネスホテルで休息し、作戦を練る事にした。

 そして、オレはここでまた盛大に……


「ねぇ、キミ……どうしてなワケ……?」

「あ……」


 ホテルの部屋へ入ると、一華は口をあんぐりとさせて肩を落とした。

 そりゃそうだ……しかもダブルベッドルームじゃん。最悪だわ……オレ。


「い、一華ごめん!悪意は無いんだ、ホテルを予約すんの初めてでさ、よく分から……」

「もういいっ!……ご飯食べるよ」


 一華は小さなテーブルセットで、オレはドレッサーで食事をした。

 うーん……黙々と食事をしている一華から、黒いモヤモヤが見えるようだ。

 完全に怒ってる。まだ出会って半日なのに……。

 何か、何か話を振ろう……


「あー、えっと、一華は苗字何て言うんだ?あ、その制服見た事無いけど県外から来たの?あ、そういえば……云々」

「あー!もう!うるさいわねっ。今、作戦練ってるんだから少し静かにしてよね!てか、食べ終わったならシャワー浴びて来なさいよ……ったく」

「ご、ごめん。一華、先に浴びてきていいぞ!オレは後でいい……」

「あのね……女子は自分の後にバスルーム入って欲しく無いのよっ!キミは何にも知らないっていうか、デリカシーがなさ過ぎ!キミの彼女さんは可哀想だわ……ブツブツ」

「な、なんか、ごめん……」























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