7/31② スワッパー

「お前、何者だ?阿久津蓮也あくつれんやの仲間か?!」

 オレは、冷や汗をかいていた。

 こんなにクソ暑い中、寒気が襲ってきた。

 コイツ……何故、皆川賢人オレと奴のカラダが入れ変わった事を知っている?

 てか、なんでそんな非現実的な事を理解している?


 ただの女子高生じゃねぇ……


「キミさ……女性に対してとか、かなり失礼よ?それと……ワタシは、アイツの仲間なんかじゃない」

「なっ!しまっ……」

 油断した……

 オレは、彼女の綺麗な回し蹴りで、椅子ごと吹き飛ばされた。

 直ぐさま起き上がろうとしたが、時既に遅し……

 彼女は、オレの上に馬乗りになっていた。そして、彼女が手にした鉄製のペグは、オレの目の前に突き立てられていた。


「ワタシは一華いちか、高2。阿久津蓮也に恨みを持っている。キミを利用してアイツに復讐する。だから……キミも、ワタシを利用して」

 彼女は、そう言って立ち上がり、ペグを捨てて左手をオレに差し出した。

 オレ達は、テント等を片付けてからお互いについて話をする事にした。聞きたい事が山ほどある。

 因みに、一華は焚き火の後始末も完璧だった。

 川辺の平たい石の上に座り、首に掛けたタオルで汗を拭った。

 一華がくれたペットボトルの飲料水を喉を鳴らして飲んだ。


「今は、7月31日14:32、賢人キミが崖から落ちた翌日」

 一華は、スマートフォンの画面をオレの顔に突きつけた。


「近っ!あのさ、早速教えて欲しいんだが、何故オレと阿久津のカラダが入れ変わった事を知っているんだ?もしかして見てた?てか、こんな非科学的な事ある?」

 オレは、早口でまくし立てるように言葉を投げた。


「ちょっと……で迫らないでくれる?ブチのめしたくなる」

 一華は、阿久津の……オレの顔に嫌悪した。

 当然か……オレだって殺人鬼の顔なんて嫌だ。

 けど、今は自分の顔になってるという現実……


「そうね、まずキミと阿久津のは見ていないわ。そして、科学では説明出来ない事もある」

 オレは、一華の言った『スワップ』という言葉に反応した。

 聞いたことがある。阿久津が言っていた……

「ボクはスワッパーなんだ……とか、アイツが言っていた。それの事か?」

「そう。正確には『ボディ・スワップ』。それを使える人間がスワッパーと呼ばれている」

「ボディ……スワップ?」

「そう。ボディ・スワップとは、すなわち他人とカラダを入れ変える事。スワッパーは、カラダを入れ変えたい人間に、自分の血液を飲ませる事で、転移する事が出来るの」

 オレは、自分の身に起きている事なのに、エンタメの世界を想像していた。


「おいおい、マジかよ……それって、転生ってやつか?」

「『転生』は、死んだ人間の前世みたいな事だから違う。ボディ・スワップは生きている人間同士だから、『カラダ』を入れ変えると表現しているんだと思う。似て非なるもの……ってとこかしら」

「……信じられないけど、当事者、いや被害者のオレは受け入れるしかない真実って事か。スワッパーなんて超能力者、沢山いるのか?」

「一説によると、能力者は世界人口の4%程。その中でも、自分の能力に気付かずに一生を終える人が半分以上だと言われているわ」

「なるほど……。てか、一華もスワッパーなのか?あー、それよりカラダって元に戻れたりする……かな?」

「ワタシは違う。カラダを元に戻す方法はある。同じ事を阿久津にするだけ」

 一華は、不安げなオレの顔を見てクスリッと小さく笑った。


「カァァッ!良かったぁ!一生このカラダかと思った」

 オレは、安堵し地面の上で大の字になった。


「オレさ……阿久津に親友を殺されたんだ。アイツをキャンプに誘わなければこんな事にならなかったのに……」

 オレは、泣くのを堪え震える声で呟いた。

 そんなオレに、一華は衝撃的な言葉を返した。


「そんな事、どうでもいい……」

「なっ!おいっ、どうでもいいだと?ふざけんな!人が死んでるんだぞっ!」

 オレは、上半身を起こして声を荒げた。なんて事を言うんだ、コイツは。


「キミは、何も分かってないのね?阿久津は今、皆川賢人なのよ?アイツは、キミとしてこれからも人を殺す!疑われ……いや、誰もが阿久津キミの犯行だと疑わない。次の犠牲者は、キミの親、兄弟、友達、彼女……さあ、誰かしらね?」


 オレは、まるで頭を木槌で殴られたような……今まで感じた事の無い衝撃をうけた。

 そして、オレは一華にもうひとつ木槌で頭を殴られる……。


、キミが死ねば阿久津も死ぬ。その逆もしかり。そして、カラダを元に戻せるのは、スワップしてからおよそ七日間……」

「な……七。そ、それを過ぎたら?」

「カラダが定着し、元には戻れない。意味……分かる、よね?」

 一華の大きな瞳は、オレに訴えかけた。

 急がないと、オレの周りの人間に危害が及ぶ。そして七日後、オレは阿久津蓮也になってしまう。


「すまない、一華。なんか、目が覚めた感じがする……」

 一華は、無言で首を振った。


「あの……ワタシこそごめんなさい。洋介さんの死を……ないがしろにするような事を……」

「いや、いいんだ。オレが悪……ちょっと待て!オレは友達が殺されたと言っただけだ。何故、洋介なまえを知ってる?」

 一華は、暫く顔を伏せていた。

 そして、また……オレは彼女の発する言葉に絶句する。


「ごめん、詳しい事はまたでいいかな?とにかく、今キミに伝えなければならない事は……洋介さんのご遺体は、今 検死が行われている。夜にはご家族の元へ戻り通夜、明日が葬儀……の、はず」

 オレは、無い頭を捻った。

 一華は、恐らく嘘をつくような人物では無い。ハッキリとした物言いで大体分かる。

 しかし、普通じゃ有り得ない事を知っている。

 一個歳下(17歳)だけど、どこか大人っぽいし……

 何故だ……?

 っ!!

 まさか、警察関係者か?!

 洋介や阿久津、オレの事を知っているのも辻褄が合う。

 格闘技にも精通してるし……信じられないが、ボディ・スワップに特化した部署とか?……あっても驚けない。


「一華、色々な情報をありがとう!悪いけど、これから一緒に行動してくれない……かな?」

 一華は、コクリっと小さく頷いて、初めて笑みを見せた。


 そして……同じ頃、阿久津蓮也も動き始めていた。






















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