7/30① 南洋介


 一日目 7月30日 14:20


「洋介!ココだ、到着!」

「グハァ……どんだけ山ん中なんだよっ!もう太ももパンパンだわっ!おい賢人けんと、制汗スプレー貸せ」

「ハハハッ!大袈裟だな、洋介は」


 幾重にも重なる緑色の屋根が日陰を作り、照りつける日差しを防いでくれている。

 穏やかなそよ風も相まって、真夏とは思えない涼しさだ。


「よし、自転車はココに止めて行こう!」

「は?……着いたんじゃねぇのかよっ」

「もう少しだよ。最高の場所だぞ、そこにテントを張る」


 洋介は、肩を落とし大きなカラダを縮こませた。

 南洋介みなみようすけ皆川賢人オレは、小学生の空手教室で出会った。

 友達は皆、習い事と言えば塾や英語教室。

 しかし、オレの両親はひ弱な息子を鍛えようと武道を選んだ。

 オレは、嫌々泣きながら通った。

 洋介は、そんなオレとはまるで違った。

 小学生の頃から、筋肉質なカラダで中学生をも相手にする程強かった。

 人よりも優れた武道の才能を持っていた。

 普段は明るく人懐っこい性格で、沢山友達がいた。

 オレもその中のひとりだった。

 洋介とオレが親友になった理由は、何のことは無い……アニメの好きなキャラが同じモブだったから。

 洋介と親友になってからは、空手教室に行く事が楽しみとなっていた。

 稽古も真面目に取り組むようになり、そこそこの実力がついた。

 まあ……中の上だが。

 当然の事ながら、洋介には一度も適わなかった。


「なぁ、賢人。俺達は、爺さんになってもずっと親友だ」

 洋介がよく言うセリフだ。

 勿論、オレの思いも一緒だ。

 18歳になった現在いまも、大学へ行っても、成人しても、就職しても、年金生活になっても、決して変わることは無い。


 オレ達は、固い友情で結ばれているんだ。


「よーし、今度こそ本当に到着!」

 オレは、洋介の労をねぎらい大きな肩を強めに2回叩いた。

 太い木の根元に座り込んだ洋介を後目に、オレとある場所へ足を運んだ。


「おい、洋介。早く来いよ!」

「今度は何だよ?お前、体力だけはあんのな?」

 洋介は、タオルを首に巻くとノソノソとオレのいる所へ来た。


「……!!お、おおおっ!コイツはやべぇな!!」

 洋介は、目を丸くして驚いた。


 この場所は、オレが見つけた絶景スポットだ。

 オレ達の住む町を一望出来る、まるで自分が城下町を眺める一城のあるじにでもなった気分になれるんだ。

 洋介は、リュックサックを下ろすのも忘れ、暫くの間絶景を眺めていた。

 オレは、自然と頬の緩んだ洋介の横顔を見て、スゲェ嬉しかった。


 連れて来て良かった。


「おい賢人……」

「ん?」

「俺達、ジジイになってもまたここに来ようぜ」

「ああ、そうだな……」


 まさか、その約束がこの日の夜に壊されるなんて、この時は1ミリも思っちゃいなかった。













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