第6話 孤独な旅

 いくつの季節を越えただろう。

 幸せで温かい生活の終焉。

 それは突然やって来た。


 召使いどもが騒々しい。

 大声で何やら言い合っていた。

 ボクに関わりのない範囲ならどうでも良かった。


 だけど、そうではなかった。

 ボクは冷たくて固いカゴの中に入れられた。

 嫌な予感がした、このカゴは嫌いだ、ボクの叫びは無視された。


 大きい召使いが、カゴに入ったボクを持ち上げた。

 物凄い大きな音がして、グラグラ揺れて、恐怖と不安でいっぱい。

 どうやら、これはクルマという名前のようだ。


 やめてよー、怖いよー、出してよー。

 いくら叫んでも、暴れても無駄だった。

 カゴとクルマの出口が開いた、今だ!


 ボクは飛び出して、必死で逃げたんだ。

 あんな怖い所にはいられない!

 恐怖に駆られるまま、草むらの中を走った。


 ここはどこだろう?

 ふと気が付くと、見知らぬ森の中だった。

 ボクをこんな所に連れて来た、召使いはどこへ行った?


 分からない、怖い、孤独だ、不安だ。

 周りを見回しても、全く見覚えがなくて。

 周囲を嗅ぎ回っても、知っている匂いはなかった。


 おーい、召使いどもー、どこにいるのー?

 大声で呼んでも、全然来てくれなかった。

 このまま待っていたら、召使いが迎えに来るだろうか?


 暗くなった。

 風が冷たかった。

 森の樹々が騒めき、ボクを脅かした。


 寒空に一人になって、ボクは召使いの温もりの有難さを知った。

 寒いよー、怖いよー、ひもじいよー。

 いくら呼んでも、召使いは姿を見せなかった。


 お腹が減った。

 ボクはその辺に生えている草を食んだ。

 全然美味しくなかった。


 落ち葉の下を掘ると、食べられそうな虫がいた。

 味はまあまあかな?

 でもその後、ボクは酷くお腹が痛くなっちゃった。


 帰りたいよー。

 温かいアタラシイイエダヨに。

 召使いが出してくれるカリカリが食べたいよー。


 風の匂いを嗅いだ。

 日の光と、夜空の星々を見上げた。

 アタラシイイエダヨは、どっちだろう?


 多分、こっちの方角だ。

 ボクには分かるんだ。

 あの温かくて優しい場所は、こっちにあるって!


 森の中では、空を飛ぶ敵がボクを食べようと襲って来た。

 大声で威嚇して、飛び掛かると、奴らはどこかへ羽ばたいて行った。

 ざまを見やがれ!


 固い石の上を歩くと、大きな音を立ててクルマが襲い掛かった。

 クルマは嫌いだ、なにあれ怖い!

 おっきくて速くて、轟音で威嚇して来て、身の危険を感じた。


 だからボクは、なるべく石の上を避けて歩いた。

 森の中や、同じ石でも危険の少ない、高い所を選んで歩いた。

 ボクの小さな体の幅しかないから、クルマはここまで来れないんだ!


 ボクの大っ嫌いな、水溜まりがあった。

 ちょうど喉が渇いていたから、濡れないように慎重に近付いた。

 召使いが出してくれる白い水の方が、ずっと美味しかった。


 またお腹が痛くなった。

 あの水のせいか、道端で食べた不味い虫のせいか。

 半分食べたところで、腹の中に別の長い虫がいたんだ。

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