鳥、会えず
火口付近まで登ると、噴煙が視界を塞いだ。
未だに活発な桜島でならそれに会えると思った。だが、現実は厳しかった。
小学生の頃に読んだ手塚治虫の『火の鳥』。
僕はそれに魅せられ、どこまでも追い求めた。
——火の鳥は本当にいるのだろうか?
彼の鳥の実在を証明する。
いつしか僕の浪漫は、突拍子もない目標へと様変わりしていった。
火の鳥の生態。なぜ自ら火中に飛び込んでまで、生を貪るのか。手塚作品では神々しく描かれていたが、僕には妙に生々しい生への貪欲さだけが浮き上がって見えた。彼の鳥は本当に無欲なのだろうか? 否、むしろ、生にしがみついて足掻いているようにしか見えない。
僕は現在活動中の火山を調べた。
富士山は身近な火山だが今は休止中だ。時々水蒸気爆発は起こるが、それでは意味がない。ベスビオス山は今も活動中だが、如何せん遠すぎる。流石にイタリアまでは行けそうにない。
そのような感じで調べていくと、今も活動の只中にある火山があった。今も噴煙を上げ続けて、噴火と休止を繰り返している桜島である。シラス台地の生みの親でもあるその火山にターゲットを絞った。
雄大な噴火の様子を見るに、きっとそこでなら火の鳥に会えるに違いないと踏んだ。
新幹線を乗り継ぎ、鹿児島駅からタクシーで桜島まで向かったが、途中で降ろされた。
「お客さん、ここから先は通行禁止です」
「なぜです?」
「噴火の予兆がありまして」
僕には
桜島の近くの旅館で降ろしてもらった。どこか適当な場所、ということで体裁をとった。だが、旅館に泊まるつもりはない。
強行策をとることにしたのだ。
日が高い内は何かと監視の目があるだろうから、日が落ちるのを待って行動に移す。
噴煙で周囲に降り積もる火山灰をかき分け進む。
桜島は文字通り島だったが、大正大噴火の時に大隈半島と陸続きになった。今回はそれが幸いした。
元々登山の予定で来たから、装備は十分である。ヘッドライトを光らせながら、前に進む。
上り詰めた山頂で、視界を塞いだ噴煙が北西の風に吹かれて霧が晴れるように目の前が開けた。火口のマグマが噴出しているのが見える。
——熱い。
そう思って首元を緩めた刹那、足を滑らせてしまった。滑落しながら見た光景は、さながらスローモーションのようだった。マグマが噴出して柱となり、火の粉を撒き散らしながら天高く飛び立とうとしている。炎の羽を広げた鳳凰のように——。
僕はその瞬間、火の鳥を目撃していた。
そして悟る。「きっと火口から噴出する火の粉やマグマを火をまとった鳥と見間違えたんだ」と。
古代の人は未知の事象に畏れを抱く。そして、神秘として丁重に敬うのだ。それが神という存在の始まりだという。火の鳥もそんな、神秘的な存在なのだろう。
了
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