呪い呪われうり二つ
木の棒を一つ一つ削っていく。
丁寧に、恨み言を一つ一つ刷り込むように。
先端がささくれ立って、削りかすになっていく。それを見ていると実に小気味よい。
「痛っ」
油断したのか、カッターナイフで指を傷つけてしまった。気をつけないと……。
絆創膏を貼って、再び作業に没頭する。
何時間経ったのだろう。
私の目の前には五十本ほどの杭があった。
その頃には怪我の痛みは無くなっていたので、絆創膏を剥がした。小さなささくれができてしまった。
そろそろ丑三つ時だ。
藁人形を五体持って、狐の社へと向かう。
一つ一つ杭で木に打ち付けていく。丑三つ時を過ぎると効果がないのでできるだけ素早く、確実に。
一つは、私に便所飯を強要したあいつに十本分の恨みを。今でも便所飯は続いている。
一つは、教室で大事に飼っていた亀を
一つは、靴に画鋲を入れて私の足を血まみれにしたあいつに十本。
一つは、私を体育館裏に呼び出して暴行に合わせたあいつに十本。
そして最後に、私の好きな人を奪ったあいつに。十本分の恨み。
ねぇ、呪詛で人を殺しても罪にはならないよね?
息が苦しくなって、涙が
右手の人差し指のささくれが妙に気になる。別に痛みがあるわけではない。ただただ、気になるのだ。妙な存在感があるような気がしてならない。
私の呪いは達成された。
その事実を担任が告げた訃報で知った。
私は静かにほくそ笑む。
最近、どこまで現実でどこから幻か分からなくなってきた。まるでずっと夢の中に住んでいるような錯覚さえ覚える。その割に、指のささくれだけは妙な現実味を帯びて、鮮明に自己主張してくる。
錯覚ならいいけど、錯覚ではないことは明らかだ。
学校内を虚ろに彷徨っているうちに、風が吹きすさぶ屋上まで来たことに気付いた。
ささくれが妙に疼く。
現実が乖離していく。
誰かに後押しされた気がした。
そして、風の直中に飛び込んだ。
このささくれが、呪いの始まりだったなんて。思っても見なかった。そして、静かに目を閉じた。
了
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