おじさん天使

@shakenohatsukoi

おじさん天使

天使には3分以内にやらなければいけないことがあった。

それはここ廃ビルへ飛び降り自殺をしに上ってきているおじさんを

止めることだ。

天使事務所から派遣されての最初の仕事がこれかと天使は

つぶやいた。

なにせ自殺を止めさせるには入念なリサーチが必要な上

数々の奇跡を起こして、やっと止められることが多いからだ。

わからない。どうしよう。しかし天使の眼には炎がやどっていた。

なぜなら私もおじさん…おじさん天使だからだ!

前は悪魔をやっていた。が、同僚の悪魔からは

やっぱりあんた悪魔向いてないよ。

お年寄り優先席にターゲットの若者を座らせるのにも躊躇するんだもんとおじさん

天使は言われたことがある。

まあ悪魔と言ってもいろいろいるから…あっこれ地獄の業火で焼いたスルメ。

食べるかい?と上司に慰められたことも。

そうこう悪魔界でくすぶっていたおじさん悪魔にまさかの配置替えが話が来た。

どうも天使界の天使の一人がターゲットに「ゴミを分別させる」という

目標を達成できなかったらしい。その天使と入れ違いでおじさん悪魔は

おじさん天使になった。

あと3分後にターゲットは地面に激突して命を落とす。

さてどうしたものか?と考え、出した答えが屋上にこさせなければいい。

そうだ!屋上までの道を「SASUKE」にしてしまえ。

おじさん天使は脳筋であった。

さしあたりまず階段を滑り台のようにした。

ちょうど階段昇っていた自殺希望のおじさんはこけて滑るように

一段階したの踊り場まで落ちていった。

しかしこのおじさんは強かった。なにやら不思議なものを感じながらも

這って上へ進みだした。

そうこのおじさんも脳筋だった。頑張る。

なぜこのようなおじさんが自殺を?と一瞬考えたが時間がない。

ならばとおじさん天使は汗だくで上へ上ってくるおじさんにむけて

石鹸水を放出した。

「!?」とさすがにおじさんも、これには驚いたらしく

立とうとしたがそのまま仰向けに倒れた。

よし!これであきらめるだろうとおじさん天使は思ったが

仰向けになったおじさんも奮闘する。

石鹸水でビショビショになった服を脱ぎだしパンツ一枚で

坂を這って上りだした。

なんておじさんだ!そうまでして死にたいのか!しかし天使も負けない。

もはや滑り台ではおじさんの戦意を挫くのは不可能と感じ

屋上に仕掛けを設けることに。

ぜえぜえしながら裸のおじさんが屋上につながるドアを開けるとなんとそこには

「迷路」がつくられていた。

おじさんはなぜ屋上に通路があるのかと、迷路になっていることは気がつかずに

前へ進み出した。

が、迷う迷う。ついに怒りが怒髪天に達したおじさんは迷路の壁を登り上がろうと

した。

しまった。迷路の「天井」を作り忘れていた!しかしそうはさせまいと

天使おじさんはここでも石鹸水で攻撃。おじさんはすべりまたもや仰向けに

倒れた!

静寂が流れる。

自殺志望おじさんしかり天使おじさんも力を使いはたしへとへとだ。

その時はじめておじさんから声が漏れた。

「ははは…おーい天使さま?仏さまかい?」

おじさん天使は口をつぐむ。

おじさん天使は言葉だけで彼を救える程の技量を持たないのだ。

「あんた優しいんだな」

「今日俺は三度こけさせられたけど顔や頭は打たなかった。ぶつかる瞬間誰かの

手でそこを支えられてたからだ」

やっぱりばれてたかと顔を赤らめるおじさん天使。

「しかしこの迷路…出口がないだろう?それは反則ってもんだよ」

うわーそれもかと真っ赤になる。

「あんたの優しさ分だけもう少し生きてみようかなあ…」

「ありがとよ天使さま」

どういたしましてと言いたいとこだがおじさん天使には恥ずかしすぎた。

風が吹く。

石鹸のいい香りがした。

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