○○には三分以内にやらなければならないことがあった

もと

ついでにバッファロー

 ○○には三分以内にやらなければならないことがあった。

 が、○○だから上手く出来ないし、なにしろ○○なのだから覚えてもいられない。これは参ったなと頭を抱え、いやいや、あれま南無三、○○だから頭も無いぞ。

「やあ!」

「え? あ、はい……やあ?」

「キミ、噂の○○だよね?」

「はい? いや、うわさって……まあ、はい、分かんないですけど」

「『分かんない』? アハハハ! 分かんないの?! それは傑作だコメディだギャグだ自堕落でベラボウだね! アハハハハハハ!」

「はあ……」

 ○○には三分以内にやらなければならないことがあった。もう既に一分は経過しただろうから、あと二分ぐらいで何かをどうにかしなければいけない。なのに○○だから全く何も分からないし、趣味の悪いピエロに笑われている。今も絶え間なく笑われている。何がそんなに可笑おかしい? ○○だって生きているんだ、ピエロに笑われるいわれは無い、無いだろう、無いはずだ、無いと思いたい、否、待て、なんだピエロとは? そもそもピエロと○○は似て非なる、似ても似つかぬ存在ではなかったか。

「おや、こんな所に○○が。タマネギと一緒に食べてしまおうかな、いただきまーす」

「は?」

「ウフフフフーン冗談ね、冗談だよ」

「あの、申し訳ないのですが――」

「やだ○○ってば、『申し訳ない』なんて思ってないでしょ?」

「……あ、ええと」

「申し訳ないと言いつつ、まっっっったく申し訳なさが伝わってこないね! これはムフフフフフ、お仕置きだね!」

「はい? ……はい?!」

 ○○には三分以内にやらなければならないことがあった。もうとっくに二分は過ぎているだろうから、あと一分でやらなければ。やらなければいけない、のに、ピエロが立ちはだかる。

 白塗り涙目三角帽のピエロによって○○は三途の川に娑婆シャバ娑婆シャバひたされたり、秘密の花園で秘密の花や蕾をアレしたり、富士山の頂上で炊き込みご飯を握り飯にする内職で五百円を稼いだり、裸にむかれた王様に上手いコト言ってパレードを決行させたり、ちょっと木星まで行ってピテカントロプスとして名を馳せたりした。している。してしまっている。

 お仕置きならば仕方ないが○○は追い詰められている。あと何分、何秒残っているのだろう?

 否、もう何も言うまい。

 何をどうしても○○だから分からないし、むしろ今は○○として生まれた事に誇りを持っている、かも知れない。そんな気がしてきた。ピエロと肩を組み、五百円玉を握りしめて、清々しいほどに笑っている。笑って、笑って、笑っている。


 ――ああ、思い出したぞ! ○○とは! 我は○○!


 ピエロが指をパチン、鳴らした。

 たった今の今、三分経ったらしい。

 そうか、そうだな、そうリセットだ、○○のやらなければいけない事は分からなくとも○○としてよくやったと自画自賛よ、大丈夫だ、よく生きた、本当に。

 次、行ってみようじゃないか。

 まばたき一つ、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが○○の鼻先に、一秒先に迫っている。






  タイトル

  『生まれた意味なんてあって無いようなものだから』

  おわり。

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○○には三分以内にやらなければならないことがあった もと @motoguru_maya

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