変身ごっこ

京極 道真  

第1話 変身ごっこ

電車のドアの僕には3分以内にやらなければいけないことがあった。

「あー今日も朝から混んでるなあ。」つり革君が愚痴をこぼす。

「つり革君、まだ君はいいさ。人間の手で、ちっと触れられるだけだし。

ドアの僕には次の駅までの時間に人間を変身させる仕事がある。あー、しんどいって感じだよ。」

つり革が揺れながらさらに愚痴をこぼす「よく言うよな。俺なんか、気を抜いてたら、丸い輪の中に全体重かける奴がたまにいて、ちぎれそうだよ。」

「そうなんだ。意外とつり革君の仕事もタフな力仕事なんだ。」

もうすぐ次の駅だ。僕の仕事がはじまる。

飯田橋駅に着く。電車の僕のドアが開く。人間が降りる。乗る。

「よし見つけた。」紺のスーツのおじさん。おじさんの脳内に侵入。

「おはよう。おじさん?」

「君は誰だ?」

「おじさん、そんなに警戒しないでくれ。」

「まあ、いいか。最近疲れているし、脳内妄想か?つきあおう。」

「意外とノリがいいんだね。まあな、これでもお笑い志望したこともあったしな。」

「おじさん、もし変身できるとしたら何になりたい?」

「変身かあ?戦隊もののヒーローかな。」

「戦隊のヒーローか。わかった。」次の駅は水道橋だ。

「おじさん、駅に着いたよ。いってらっしゃい。」電車の僕のドアが開く。おじさんは、今日は遊園地で戦隊のヒーローに出演。スーツからジャージに服装が変わる。

「いってらっしゃい、おじさん。うまく変身、できました。」

駅に着き、また人間達がまた乗る。対象物を車内で探す。決めた。制服の小学生。

「おはよう。子供。」頭のよさげな小学生は僕の脳内侵入をガン無視する。込み合う電車の中、分厚い本を読んでいる。「おい子供聞こえるんだろう。」

「はい。聞こえていますがママに知らない人と話すなとの命令があります。」

「いい子の君にプレゼントです。何かなりたいものは?変身したいものはない?」

もうすぐ秋葉原の駅。

「ある。」

「何?」

「人間に変身したい。」

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