三分間の法則

四季式部

三分間の法則

タイマーには三分以内にやらなければならないことがあった。


頼んだよと俺はソファーの上に寝そべり、スマホを見ていた。百八十秒という長くて短い時間。


もう深夜二時だというのにふと電話が鳴った。


電話に出ると海外の人だった。なにか英語で喋っている。


「You're the Prime Minister, or there's a bomb in your country. We're going to go get it, but can we go now? Otherwise, the bomb will explode.」


俺は急に言われたものだからよくわからずに「No」と返事をした。


そのあとも色々と言っていたが、眠いこともあり電話を切った。


切って数分で破裂音が聞こえる。


「は?」


口から出たのはそんな空気だった。


外に出る。冬だというのに部屋中のように暖かかった。


高いビルが爆発しているのが遠目でもはっきりと分かった。なんだこれと思っているとまた、隣のビルが爆発する。


刹那黒い大きな影を見た。


月明かりや炎に照らされてその黒い影はくねくねと動いている。


俺はいつの間にか走り出していた。


焦っているのだろう。足元がおぼつかずに何回が転んでしまう。


気づくとその影は正体が見えるほどまで近くにいた。


まるでパニック映画である。厚い皮膚を折り曲げてこちらに顔を向ける。


なんだ恐竜ってやつか。


俺はもう怖くは無かった。


恐竜のようなそれは何も言わずに歩み寄ってくる。まるで子犬のようだった。


「ぐきぃ」


硬い何かが折れる音が鼓膜を殴った。


「えっ」


一秒が一シェイクが一ジフィが


俺は時間の流れが遅くなるのを感じた。


ほんの僅かな時間さえも天文学的数字に見えた。


その刹那に隕石を友達がキャッチし、朝陽でジャグリングをする。


空からはあの恐竜を殺した大粒の豆腐が落ちてきていた。


豆腐の角で死ぬなんて馬鹿な言葉だ。


それさえも今は現実だという感覚が脳を独占した。


なぜならもういないはずの友達が瞬きだけで出てきたのだから。


脳が考えるよりも先に、脊髄が動く前に、歩みを進めていた。


俺が守りたいと思ったあの子の元へだ。

彼女の家はここから1分もしない。


そんな近い場所に住んでいる彼女の元へと走る。


彼女はいつものようにニッコリと笑った。


「君疲れてるでしょちゃんと休んでね」


気づくと俺はソファの下にいた。


キッチンからはタイマーが役目を果たしている。


あの非現実は一体何だったのだろうか。


「夢」


その一言で十分だった。


俺は少しだけ伸びてしまったカップラーメンを啜りながら彼女に電話をする。


彼女は俺の声を察したのか「三分くらいでそっちに向かうから」と可愛らしく俺の鼓膜を温めてくれた。


俺にも三分以内にやらなければならないことが出来てしまった。


百八十秒という長くて短い時間。親の帰りを待つ子供のように緊張と楽しみが時間を短く壊していった。

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