レッドオアブルー

海猫ほたる

レッドオアブルー

 古村寺こむらでられいには三分以内にやらなければならないことがあった。

 それは、時限爆弾の起動スイッチを解除する事。


 それと、後ろで縛られている後輩バディ西木にしぎを救出する事だった。


 同時に踏み込んだベテラン刑事のスミスとポールは既にられている。


 あと、残っているのはれいだけだった。


 普段のれいは怪盗カタパットを追いかけて世界中を飛び回っている。


 こんな危険な現場に赴く事は滅多にないれいだった。


 が、たまたまマフィア集団オカサファーのアジトが郊外の廃ビルにあると通報が入った。


 急遽、れい西木にしぎも突入する事になったのだ。


 だが、それは罠だった。


 突入したはいいが、廃ビルには誰もおらず、客にマフィアたちの奇襲を受ける事になったのだ。


 そしてマフィア達と共に現れたのは、同僚だったはずの女、アニエス。


「アニエス……君が……」


「そうよ私が裏切り者だったのよ。でももうあなた達はここで死ぬから、関係ないわね。あははははは」


 アニエスはマフィア達と共に去って行った……次元爆弾を残して。


「くそっ!早く……この爆弾を解除しなければ……この赤と青のコードはどっちを切れば良いんだ……」


 れいは迷っていた。


 間違った方を切れば、西木にしぎ共々あの世行きである。


「う……」


 西木にしぎが目を覚ました。


「大丈夫か……今すぐ助けてやるからな……だが……どっちを切れば良いのか分からん」


「俺……は……良いから……好きな方を切れ……」


「わ……分かった」


 そうは言ったものの、まだれいは迷い続けていた。


 彼は生来の優柔不断だったのだ。


 レストランのメニューですら、選ぶのに三十分はかかる男である。


 レストランに行くたびに、恋人のティファニーに呆れ顔をされていた。


 そんな男が、生と死を分ける赤と青のコードを選ぶのは、50メートル先に吊るしたキーリングを撃ち抜くよりも困難な事である。


「ああくそっどうしたら良いんだ……さてはアニエス、俺の性格を知った上でこんなトラップを仕掛けやがったな……」


 刻々と爆弾のタイマーはゼロに近づいていた。


 もう……ダメか……


 解除コードを選ぶ事が出来ずに諦めかけた、その時だった。


「全く……呆れた男ね……」


「お、お前は……」


 颯爽と現れたのは、怪盗カタパット。


 普段、れいが追いかけているが、一向に捕まえられないあの怪盗カタパットだ。


「今日は捕まえにこないから、何してるのかと思って見に来てみれば、次元爆弾のコードで悩んでいたのね」


 怪盗カタパットは覆面をしていて、正体は分からない。


 だが、声は恋人のティファニーとそっくりだった。


 だが、れいはその事に気がついていない。


「こんなコード、さっさと切ってしまいなさいよ」


「分かっている……分かっているが……俺には……」


「ああもう焦ったい……貸して!」


 ティファ……もとい怪盗カタパットはれいの手からニッパーをひったくると、さっさと赤のコードを切った。


「ああっ!……爆発……しない……」


「ほら、こういうのはどっちでも良いからさっさと決めたら良いのよ」


 次元爆弾のタイマーは残り0.01秒を残して止まっていた。


「た、助かった、怪盗カタパット」


「ふふ……また私を捕まえに来なさい……じゃあこれで」


 そう言うと怪盗カタパットは颯爽と消え去った。


「ああ、今日の所は助かったぜ、怪盗カタパット。だが、いつの日か俺が絶対捕まえてやる……」


 れいは怪盗カタパットが消え去った窓の外を少しの間、見つめていた。


「さーて、そろそろここからおいとまするとしようか……おい、西木にしぎ、生きてるか」


 れいは窓の外を見つめるのをやめて、振り返る。


「あ、ああ……俺……は……大丈夫」


「そうか、なら帰るぞ。早く帰ってティファニーの手作りクラムチャウダーが飲みたいぜ」


 後輩バディ西木にしぎを縛っていたロープを切って、西木にしぎを担ぎながら廃ビルを後にした。


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