お昼の3分クッキング[KAC20241]

夏目 漱一郎

第1話番組内ディレクター会議

私達には三分以内でやらなければならないことがあった。

ある日、私達『テレビNET』の局宛に、視聴者から一通の手紙が送られてきた。

それは、私達の局が制作しているある番組に対する痛烈な批判が綴られたものだったが、その内容を要約するとこうなる。

テレビNETをキー局にしてお昼に放送している番組に【お昼の3分クッキング】という番組がある。その名が示す通り三分間の料理番組なのだが、厳密には、三分間で料理は完成していない。番組内で料理を紹介する番組専属の料理評論家は、途中でしれっと「」とか言って、足元に隠しておいた殆ど調理の終わっている食材を取り出して何事もなかったかのように番組を進める。どうも、それが視聴者の怒りを買ったらしい。

『あんなの三分で出来る訳ね~だろっ!』とか、『インチキしてんじゃね~ぞ!』などというクレームが毎日のように局に届けられるようになり、局はこの事態を重く見て急遽ディレクターによる番組内会議が開かれる運びとなった。


「大体、定食屋で何か注文しても五分かそこらかかるんじゃない?そもそも番組の設定にムリがあるんじゃないかな」

「今更そんなこと言われたって困りますよ!何か方法があるはずです」

「料理する人の数を増やして段取り良くやれば、だいぶロスを減らせると思うんですが…」

「お、いいね~その調子だ!どんどん意見を積み上げていこう!」

「スタジオのコンロが二つですけど、もっと増やしたら…」



♢♢♢



そして、ディレクター会議後はじめての放送日を迎えた。


キッチンは、この番組の為に新設された有名レストラン顔負けの設備を誇る特設キッチン、調理器具は圧力鍋、フードプロセッサーなど時短に特化した数十種類の調理器具、そして厨房スタッフには全国の星付きレストランから厳選された総勢30名のベテラン料理人が新たに配置された。


そのテレビ画面では、いつもの番組専属料理評論家が視聴者に挨拶をする。

「さあ、今日も3分間で出来る簡単なお料理を一緒に作っていきましょう~」

その料理評論家を囲む30人のスタッフと数台並んだコンロをテレビで観ていた視聴者は、呆れた表情で呟いた。


「いや…そりゃ出来るだろうけど…」


その【お昼の3分クッキング】は、四月の番組改編で打ち切りとなった。




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