3分間の攻防

大黒天半太

1ラウンド3分で出来ること

 サイラスには、三分以内でやらなければならないことがあった。


 一つの生命体が、知性を獲得して、次のステップへ進もうとする時、十分な観察を行い、かつ必要な支援を人知れず行う、文明進化観察者ウォッチャー

 それがサイラスの帯びた任務であり、そのためにこの異世界に単身やって来た。


 生命の危機に瀕した土着の知的生命体の中から、勇敢でタフな個体を選び、助ける代りに協力する契約を以て、一時的に同化する。この異世界にサイラスの肉体を実体化し維持するには、莫大な魔力エネルギーが必要であり、何かを行うにもさらに追加の魔力エネルギーが必要で、観察を続けるためだけに消費するには、ロス/無駄/浪費が多過ぎる。


 その異世界土着の生命体との一時的同化は、そのための手段であり、土着生命体個体の自由意思と尊厳を保つためにも、サイラスの意思の発現は最小限に限定される。


 おおよそ、文明進化観察者ウォッチャーの実体の顕現とそれに伴う行動や何かの行使には、蓄積していた膨大な魔力エネルギーを使わざるを得ず、その魔力エネルギーで維持できる時間は、一回三分間あまりと頼りないものだった。


 サイラスは数世代に渡り、その異世界の観察者ウォッチャーを務め、その間、土着生命体の種族は、知性を確立し、社会性を獲得し、相互に学びを得ることで社会全体を文化的にも技術的にも進化させた。


 そうした若い芽には、往々にして苦難が降りかかることが多い。

 それこそが神の試練と言う者もいれば、神の加護(サイラス達を含む文明進化観察者ウォッチャーの支援も含まれるようだ)を羨んだ他種族の嫌がらせと言う者もいる。ただ。苦難の降りかかった側の土着生命体からすれば、どちらにせよ天災の類いであり、克服すべき対象でしかない。

 彼らが自らの問題としてそれに立ち向かう時、それにささやかな霊感アドバイス偶然アシストが突然降って来ることはあってもいい。サイラスはそう思うし、そうして来た。


 彼ら種族が独り立ちし、自らの所属する世界以外の世界へ挑む段階に達した時、サイラスの任務は解かれるだろう。それが次元を超えた異世界への転移か、光速を突破した他の恒星系への旅なのかは定かではないが。


 それまでは、この種族の個体と代わる代わる同化し続け、見守ることになるのだろう。それも悪くないと思い始めている自分に、サイラスは苦笑した。観察対象に入れ込み過ぎだと、友人達には言われるかもしれない。


「緊急警報! 緊急警報! 高魔力エネルギー未確認飛行物体UFO、多数出現」

 アラームと共に全ての隊員の端末に、仮想敵~未確認だが敵対存在のデータが表示される。

「防衛隊特別緊急対応戦術チーム、出撃せよ!」

「ラジャー!!」


「地上展開急げ! 」

 複数の台座を路上に拡げて設置、ミサイルランチャーを載せ、次にビームキャノンを載せ素早くバッテリーパックに繋ぐ。


 仮想敵の未確認飛行物体UFOは、十二機を越えてからは数えていない。ランチャーは三基、掛ける四発でミサイルは十二発。バッテリーパックは、二基。発射可能なのは二発で、ビームは計四発で電池切れすっからかんだ。


 戦闘は突然、転移して至近距離に現れた未確認飛行物体UFOの奇襲に近い形で始まり、航空戦力が負けた後、近距離まで堪えて始めた地上チームの反撃も、敵の魔法障壁バリアを破れずに終わった。


 無法な、他の文明圏からの組織的侵略。文化的技術的な面での圧倒的な差から、抵抗も風前の灯に過ぎない。

 もう、ただの観察者ウォッチャーでは、いられない。

 私は、覚悟を決めた。彼にも、その意思が伝わる。


 防衛チームの仲間達から見られない位置へ移動し、隠し持っていたアイテムを取り出す。蓄積した高魔力エネルギーを封じ込めたカプセルだ。

 土着生命体であり私の一心同体の相棒であり、防衛チーム隊員である彼は、それを高く掲げ、開放するスイッチを入れる。彼の身体は、強いエネルギーに包まれ、私にバトンは渡された。


「先ほど出現した高魔力エネルギー体は、銀色の巨人になりました!!」

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3分間の攻防 大黒天半太 @count_otacken

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