第6話 能力の暴走

 轟音のした方を見たわたしは驚愕した。

 そこには巨大な牛の群れが暴れていたのだから。

 わたしは目をこすり、もう一度博物館の外に広がる駐機場を見る。

 やはりそこにはバッファローと思われる野牛の群れが暴れていた。

「そ、そんな馬鹿な……。」

 思わずわたしは声をもらしていた。

 この牛たちは一体どこから現れたのだろう。

 ただの幻覚なら牛の近辺に止まっていた兵員輸送車や古い戦闘機が吹き飛ぶことはない。

 しかし、今ここでこれらの車両や飛行機が破壊されている。

 それだけは間違いない。

 ふと周りを見れば職員たちも突然の事態に慌てつつも事態を収拾すべく、屋内に保管してある警備用の銃砲(恐らくは暴徒鎮圧様ショットガン)を取り出していた。

 不慣れな手付きで銃へ弾丸を詰める職員を尻目に、わたしは改めて周囲を見渡す。

 その時、わたしは見てしまった。

 大量の水牛バッファローの群れの前に立つ少女の姿を。

「神戸さん!下がりなさい!!」

 思わずわたしは声を張り上げていた。

 しかしその声が聞こえないのか、神戸亜咲花はフラフラと牛の群れへと歩いていく。

 わたしは意を決し走り出した。

 牛の群れが彼女を襲うすんでのところでわたしは、横から神戸亜咲花へタックルをする。

 非力とは言え十分に加速した上での突撃タックルにより、わたしは彼女とともに牛どもの直進ルートから外れることが出来た。

「しっかりして!大丈夫だった?」

 わたしは身の安全を確認するとすぐに神戸亜咲花に注意を向ける。

 そして彼女へ呼びかけた時に、思わずぎょっとした。

 神戸亜咲花は視線が泳いでおり、口の端からはわずかだがよだれが垂れている。

 わたしは彼女の目の前で手を上下にふる。

 しかし彼女の視線は手を追いかけていない。

 せん妄状態にあると、わたしは判断した。

(まさか能力が発動している?)

 わたしは周囲と神戸亜咲花の状態を見てその可能性を考えた。

 その様に考えると確かに辻褄があう。

 しかし客観的な証拠が無い以上、それは想定でしかない。

 わたしは端末に保存した資料に目を向ける。

 そして、そこに書かれている文字ワードを見て愕然とした。

 そこに書かれていたのは神戸亜咲花の能力発動ワード。

 それは『』だった。

 さらにそこに彼女のワードの選定理由が書かれていた。

『神戸亜咲花は南国の酪農家の家の娘であるため水牛に親しみがあり、かつただの牛に比べそうそう出てくる言葉では無いためである。』

 そして端末にコピーした資料の最後には、例の事件の直前の彼女の状態について記載が有った。

 そこには精神をすり減らした神戸亜咲花は故郷の農場の姿を見るようになっており、そこで飼育していた家畜と供にいる妄想に取り憑かれることがあると書かれていた。

 確かに彼女の口からは「水牛の……」や「牧場の……」などの言葉が呻くような響きをもって流れている。

 事態は最悪の方へと向かっているわたしはそう感じていた。

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