第2話 ある日の依頼

 その日、わたしは会社が受けた依頼の確認の為、先史研究博物館を訪れていた。

 先史研究博物館。

 いわゆる大災厄ディザスターによって失伝してしまった技術や知識の発掘回収を行う研究機関だ。

 うちも仕事がら大災厄以前の知識や機材が必要になるためお世話になっている。

 もっとも今日は博物館の協力を得るためではなく、博物館からの依頼だという。

 わたしは会社の方についてはよくは知らないけど、会社側が依頼を受けること自体はそう珍しい話でないらしく、会社が手に入れた物品や知識が世間一般に公開するにはヤバメの代物なので回収させて欲しいという話らしい。

 その為、今回みたいに依頼内容を聞きに先方博物館へ伺うのはめったにない。

 しかし、そんな依頼にわたしを派遣するなんて会社は何を考えているのだろう。

 同じグループで同じ屋号を背負ってはいるが、わたしは『回天堂』の店員であって、『《古物商》回天堂』の社員ではない。

 まあ、お互いに色々とあるので手伝いをするのはやぶさかではないのだが、最近面倒な事を全て押し付けられている気がしないでもない。

 原因は全てあのわたしと同じ名前の課長なのだが、あいにくと今日は出張で出社していないらしく文句のつけようも無かった。

 ともかく、吐き出しようもない愚痴を頭の中でリフレインさせていても何の意味もないので、今回の依頼について確認をする。

 依頼内容は先史研究博物館で保護している少女の記憶を思い出させるための品物もしくは事象を探し出すこと。

 記憶の回復なんて心理療法士とかの仕事ではないかと思うが、博物館が保護しウチ回天堂に依頼が回ってくるのであればそれは、十中八九どころか、確実に大災厄に関係する何かが関わっているのだろう。

 ただそれ故に博物館側も迂闊に具体的な話ができない。

 大災厄関連の事柄やそれ以前の失われた技術などについて迂闊に取り扱えば刑罰の対象となる。

 となれば依頼を受けた身としては、まず依頼主の元を訪れ正規かつ外部に漏れにくい方法で詳細を確認することだ。

 もう間もなく博物館の敷地へ入るゲートへたどり着く。

 わたしはゲートへ向かいながら、ふと敷地の方へ目を向ける。

 鉄格子で作られた境界の向こう側には何台もの戦闘車両が並んでいる。

 知識のない人ならそれらをひっくるめて戦車と呼ぶだろうが、わたしは仕事柄これらの車両についてもそれなりに知識が有ったので、それらが兵員輸送車や地雷除去車両など直戦闘行為は行わない車両であることを理解していた。

 大災厄で失われた技術は多い。

 ただ戦闘に関する一般的なものに関しては、以前のまま継承されている。

 それは人間のさがなのかもと考えると、わたしは少し寂しかった。

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