第4話 右利きの決断
「はぁ……。やっぱり気が重いな」
左央と口論になり左央がマクドナルドを飛び出していってしまう事件が発生した翌日、どうするべきか悩みに悩んだ挙句、僕はマクドナルドに向かって歩みを進めていた。
左央がマクドナルドを飛び出していった後、左央のことが気になり勉強に集中できなかった僕は、カウンター席にすわってしばらく雑踏を眺めてからすぐに店を出て帰宅した。
そして自室で左央がなぜ店を飛び出して行ってしまったのかを考えていたのだが、真相はわからなかった。
決定打となったのは『なぜ僕の右側の席に座るのか』という僕からの問いに、『ポテトがちょっと足りないのよ!』と訳のわからないことを言い放った左央に対して『ポテトをやるから別の席に行け』と言い突き放してしまったことだろう。
とはいえ、それだけが理由とは考えづらく、元々僕のことが嫌いだからとか、僕の右腕が自分の左腕に当たるのが嫌だったからとか、色々と理由はあると思う。
僕がわからないのは、なぜわざわ喧嘩中の僕の右側の席に座ってきておいて、口論になったくらいで店を飛び出して行ったのかだ。
喧嘩中の人間の隣の席に座れば、多少なりとも口論になることは目に見えているはず。
それを理解した上で僕の右側の席に座ってきて、居心地が良いからと頑なに席を移動しなかったはずなのに、なぜ少し口論になったくらいで涙目になり店を出て行ってしまったのだろうか。
考えられるとすれば、左央が僕の右側の席に座ってきていたのは僕と仲直りをしようとしていたからで、それなのに僕が突き放すようなことばかり言うので涙を流して逃げた、ということくらいだが、まさかそんなわけないよな……?
それなら僕の右側の席に座った初日から僕たちの関係性についての話を切り出してきそうなものだが、そんな素振りは一切見せなかった。
左央が何を考えているのか見当が付かなさすぎるな……。
そんなことを考えているうちにマクドナルドに到着した僕は、いつものカウンター席の方に視線を向け左央がやってきているかどうかを確認した。
しかし、そこに左央の姿は無かった。
「……何に期待してたんだか僕は」
昨日口論になり店を飛び出していった左央が、その翌日に再び店にやってくる可能性は限りなくゼロに近いと思っていた。
それでも1%くらいは左央がいる可能性もあるのではないだろうかと、一縷の望みを抱いてマクドナルドにやってきたのだが、やはりいつもの席に左央の姿はなかった。
左央の姿が見当たらず、今から勉強をしようという気になれなかった僕は、店を立ち去るためきびすを返そうとした--その時だった。
「--えっ、左央?」
店内にあるトイレから左央が出てきて、そのままいつものカウンター席へと向かい席に座ったのだ。
いるはずが無いと思っていた左央が実はトイレに行っていただけで店内にいたという事実に驚きはしたものの、新たに生まれてしまった問題のせいでその驚きは一瞬にして迷いに変わった。
左央はいつもマクドナルドに来た時に座っている僕の特等席の右側の席ではなく、カウンター席のど真ん中に座ったのだ。
左央がいつも座っている僕の右側の席に座ったのであれば、僕もいつも通りカウンター席の一番左側の特等席に座れば良いだけなのだが、僕が今特等席に座ってしまえば左央が座っている席から数席間ができてしまう。
そうなってしまっては会話をすることもできず、今日ここに来た意味が無くなってしまう。
ここで僕が左央の隣の席に座らず、特等席に座るのは簡単だ。
しかし、もし昨日左央が怒って帰ってしまった理由が僕と仲直りをするためにこの店にきているからなのだとしたら、特等席に座るのは得策ではない。
それに昨日左央と口論になっておきながら今日僕がマクドナルドにやってきたのは、左央に謝罪をして僕の右側の席に座ってくる理由を訊くためだ。
それならば左央の隣の席に座る以外の選択肢は無いだろう。
とはいえ、左央がカウンター席のど真ん中に座ってるせいで、右側か左側どちらの席に座るかを選ばなければならないのがまたややこしところなのだが……。
悩んだ挙句、僕が座った席は--。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます