第2話 右利きの幼馴染
はぁぁぁぁぁぁぁぁあ⁉︎
何してんのこいつ⁉︎ なんで私の方に近づいてきていつもより私たちの腕が密着するようにしてきたの⁉︎
右京が急に私との物理的な距離を縮め、更にはわざとらしく私の左腕と自分の右腕が接触する面積を増やしてきたので私は心の中で絶叫していた。
絶叫してはいるものの、右京が右腕を私の左腕に密着させてきたのは、私を別の席に移動させるために取った手段であることはすぐに理解できた。
ここで大袈裟に反応してしまえば別の席に移動しなくてはならなくなってしまうので、私は声を抑えて無反応を貫いた。
「……これでも移動しないのか?」
「……だからしないって言ってるじゃない。この程度で移動するとでも思った? だとしたら考えが浅はかすぎるわね」
普通の女子なら男子にここまで腕を密着させられれば、嫌になって別の席に移動してしまうだろう。
というか、普通の女子なら喧嘩中の男子の隣の席になんて座ろうとしないだろうけど。
しかし、私にはこの席を絶対に移動したくない理由がある。
--だって私、右京のこと大好きなんだもぉぉぉぉん‼︎‼︎‼︎‼︎
どれだけ喧嘩してても嫌いになれないくらい右京のことが大好きなんだもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
私は幼い頃から右京のことが大好きで、家族のような感覚で右京と接していた。
そんな私たちの関係が変化してしまったのは高校生になってからのこと。
高校に入学してから数日間は右京と一緒に登校したり、帰宅したりしていたのだが、それを同じクラスの女子たちに目撃され、女子たちの間で『左央ちゃんと右京君は付き合っている』という認識が広まっていってしまった。
私は右京のことが控えめに言って好き、控えめに言わなければ大大大好きなのでその噂は満更でもなかったけど、その噂が右京の耳に入ってしまえば迷惑だと思われ距離を取られるかもしれない。
そう考えた私は右京と距離を取ることに決め、学校では極力関わらないようにしていた。
その選択が間違いだったのは言うまでもない。
私に距離を取られた右京は良い気がしなかったのだろう。
程なくして右京も私から距離を取るようになってしまい、私たちの距離は離れていった。
そして事件は起こった。
『ねぇ、なんか私のこと避けてない?』
私の方から距離を取っておいてこんなことを訊くのは都合が良すぎると思っていたが、右京が私に声をかけてこなくなった理由が気になった私は右京に訊いてみた。
『左央が僕を見捨てたんじゃないか』
その言葉を聞いた私は、私が右京から距離を取っていることに対して『見捨てた』と言っているのだと思っていた。
しかし、後になってから私は右京の『見捨てた』という言葉の本当の意味を理解した。
言い訳にはなってしまうが、私と右京は別のクラスで右京が自分のクラスで孤立していることを知らなかった。
そんな状態で右京が助けを求められるとしたら、幼馴染で付き合いの長い私くらいのものだろう。
それなのに私はそんな事情も知らず、自分勝手な都合で右京を遠ざけ、右京が私を頼ることができない状況を作り上げてしまった。
右京の立場からしてみれば見捨てられたと思うのは当然の話で、私は自分のとった行動を酷く後悔した。
それから謝罪のために幾度となく右京に声をかけ呼び止めようとしたが、私が右京に近づくと距離を取られてしまい、謝罪をすることができないでいた。
だからこそ、右京が毎日のようにマクドナルドに通っていることを知った時はチャンスだと思った。
周りに同級生もいないし、勉強に集中している右京は私の接近を感知することができず、私に接近される前に逃げることもできない。
右京に声をかけるならマクドナルドしかない。
そう考えた私はマクドナルドにやってきて、カウンター席の一番左側に座っている右京の右側の席に座った。
そこまでは良かったのだが、私の右京の関係についての話を切り出すのが怖くて、結局右京の右側の席に座って勉強をしているだけになってしまっている。
そんな状態は1週間も続いているというのに、私はまだ右京に謝罪を切り出すことができていない。
そりゃ右京だって喧嘩中なのになぜ自分の横に座るのかと疑問に思い、私を別の席に追いやろうと躍起になるだろう。
右京に言われるようにもう一つ隣の席や別の席に移動するのは簡単だ。
それでも私がそうしないのは、一度逃げてしまったらもう2度と右京に謝罪をするチャンスはやってこないだろうと思っているからである。
右京の右腕と私の左腕が接触するのが嬉しいからというのもあるが、そんなことは口が裂けても右京には伝えられない。
……というか右京にばっかりドキドキさせられてるの腹が立つな。
私の左腕に自分の右腕を密着させて来てるっていうのに動揺してる様子も無いし。
私、昔と違って結構女の子らしくなったと思うんですけど?
一般的な女の子よりも育つところは大きく育ったと思うんですけど?
この常人よりも大きく育った私の乳房が目の前にあっても無反応で全く興味が無さそうにされるのは癪に障る。
そして私は大きな2つの塊を中央に寄せ、わざとらしく私の方に近づいてきた右京の方へ、わざとらしく近づいた。
「浅はかも何も勉強に集中できないんだからなんとかして別の席に移動してもらおうとするのは普通のことだろ?」
「ねぇ、ここ分からないんだけど」
「なんだよ突然真面目に勉強の話って--ちょっ⁉︎ 左央⁉︎ おまっ⁉︎ 何してんだ⁉︎」
私の急接近に驚く様子を見せた右京は、目を見開いて私の胸元へと視線をやった。
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