最後の三分

舞波風季 まいなみふうき

第1話 あと三分で……

 私には三分以内にやらなければならないことがあった。

 何をやらなければいけないかって?

 それが分かれば苦労はない。

 何をすればいいのかわからないのだ。

 私は何をすればいい?

 あと、三分以内に何をすればいい?


 もし何もしないと……

 いや、するべきことをしないと……

 いやいや、今この場に相応しい何かをしないと……

 ああーーーーもう、頭の中がぐちゃぐちゃァああーーーー。


 などとやっているうちに、三分が、最後の三分が過ぎようとしていた。

(ああ……また今度も何もできなかった)


 そして……


 カチッ……


 頭の中刻限を知らせる音がうつろに響いた。


 そしてまた……


「また、何もできなかったぁああーーーー!」

 同じことの繰り返し。

 なのに、一日が終わる三分前、23時57分にならないと、そのことに気が付かない。


 何をすれば『明日』を迎えられるのか?

 なぜ『明日』が来ないのか?

 私が最後の三分でやらなければならないこととは一体何なの?


「そうだ、23時57分よりも前に寝ちゃえばいいじゃない!」

 もう何度目かわからない『最後の三分』にそう思った。

「よし、今日は早く寝る!」


 ――――――――


 そして23時57分を迎えるも、

「だぁああーーーーだめだぁーーーー」

 日付は変わらず。

 当たり前だ。寝ようと思った時点で既に残り三分を切っているのだから……。


 そもそも三分でできることなんてたかが知れている。

 思いつくのは……

「カップラーメン……?」

 いやいや、厳密に言えば23時57分を迎えてお湯を沸かして、なんてやっていたら三分なんてあっという間に過ぎちゃうじゃん。


「『三分間待ってやる』ってセリフあったなぁ……アニメで」

 だけど、三分間待ってもらったところで何をすればいいのかわからないのだから意味がない。


「まさかウルトラマン……?」

 いやいやいや、ウルトラマンになってどうするっていうの!?

 てかなれないし、私。


 なんて、ごちゃごちゃと考えているうちに、


 カチッ……


 ――――――――


「あぁああーーーーまた同じ日の23時57分だよーーーーもうどうしたらいいのぉおおーーーー(泣)」


 なにかやり忘れていることがあるの?

 心残りのことがあるの?

 思い出せ!

 考えろ、私!


 と、その時、あることが頭に浮かんだ。

 今日の授業が終わって帰ろうとしていた時のこと、クラスメートの梨絵が、

「もう帰るの、祐実?」

 と、聞いてきた。

「うん、帰るよ」

 と、当然のように私は答えた。

「ふ〜ん、そう……」

 と、なんか言いたいことでも有りげな梨絵。

「なに?」

「ううん、別に大したことじゃないんだけど、誰かと約束とかしてるんじゃないかなって思って……」

「約束?別にしてないけど……」

「そか、じゃ、一緒に帰ろう」

 と、梨絵はいつものようにニコッと笑って言った。

「うんうん!」

 私も元気よく答えた。

 そして、いつものように、梨絵となんてことないおしゃべりをしながら歩いて駅に向かった。


(そういえば……)

 今思い返してみると、梨絵の様子がいつもと少し違うような気がした。

(それに、別れ際になにか言っていたような……)


 なんて言ってたんだっけ?思い出せない。

 取り立てて重要なことではなかったと思う。というか、そのときはそう思った。

(だけど……)

 今となっては、その別れ際に梨絵が言ったことがとても重要に思えてきた。


(何だっけ……確か……今日は……)

 と、そこまで思いついて

(あ……思い出した!)

 時計を見た。

 23時59分!

 あと一分!

 私は机の引き出しをガッと開け、ノートを取り出した。

 そして白紙のページに鉛筆で、思い出したことをなぐり書きして、


 ビリッ!


 と、破ってページを切り取り、それを、朝起きた時にもわかるようにスマホの下に置いた。


 カチッ……


 三分が終わった。


 ――――――――――――


「3……2……1……0!」


 0時00分


 1秒……2秒……3秒……


「やったぁああーーーー!」

 夜中なので控えめに、私は叫んだ。

 やっとのことで私は新しい日を迎えることができたのだ。


 昨日の23時59分に、ノートの切れ端に私が書いた文字は、


『チョコ』

 だ。

 別れ際に梨絵が言ったのは、

「今日って2月14日だよね……?」

 だったのだ。


 そして今日、私は目が覚めてすぐにメモを見た。

 早めに家を出て、コンビニで可愛いチョコを買い学校に向かった。


 そして、放課後に ――――


「んふふふ……」

 その日の出来事を思い出すと笑みがこぼれてしまう。

 明日が(もう今日だけど)楽しみって素敵なことだなと、私は心から思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最後の三分 舞波風季 まいなみふうき @ma_fu-ki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ