厄介ファンとライブ映像

シンシア

厄介ファンとライブ映像

 厄介ファンには三分以内にやらなければならないことがあった。


 迷える子羊の悩みを解決しなければならない。


 推しという概念や推し活という言葉が世間に広まった現代で、推し活をする上で悩みを抱える人が増えた。


その結果ファンが推しに対して引き起こしてしまう事件も増えた。


個人情報の特定、ストーカーなどから始まり、爆破、〇人予告などの大事件に発展しかねないファンの行動。


 それを防ぐために「推し活アドバイザー」が作られた。


 今、警察署のとある部屋の中。


柔らかな木で出来たインテリアで満ちたこの部屋に一人の相談者とアドバイザーが対話をしている。


 小さな紺色髪の少女が向かいに座る女性に相槌をうつ。


 ハルは現役高校生であるが立派な推し活アドバイザーである。


こうして相談者の悩みを聞くのは勿論。


実際の事件が起きてしまった時にファンの心理を推察して犯人特定の協力もする。


 女性の悩みはこうである。


 彼女の推しバンドはライブの映像を販売しているのだが、収録されている映像の大半をそのまま動画共有サイトにアップロードしてしまっているのだという。



 ハルは一つ息を吸い込むとこの問題についての考えを言う。



「円盤を持っていないファンに優越感を持つのです。私は好きな時間にこれから先も見てやれるんだぞ。お前らはこのサイトが突然閉鎖したり、インターネット環境がなければ見られないが私は違う。それに貴方は実際の円盤を持っているという喜びを忘れていませんか。サブスクやサイトで簡単に見られる世の中だからこそ円盤で聞くことの価値があると思えます。所有欲ですよ。ワンクリックで見るのか、ディスクを選んでセットしてスイッチを回すという行為の果てに見るのか。その選択の権利があるのです」



 女性はハルの言葉を聞くと席から立ちあがりお辞儀をして満足したように部屋から去っていった。



 その後ろをハルも追いかける。



 とあるライブ映像のプレミア公開に間に合わなくなってしまうのだ。

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厄介ファンとライブ映像 シンシア @syndy_ataru

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