第2話 飴ちゃんどうぞ
ホテルに到着しチェックインを済ますと夕食までは自由行動。
今泉の強引な発案により僕と橋本ちゃんと上山さんの四人でハイキングすることになった。
「三上、わかってるよな?さり気なく、さり気な〜く分かれるからな。俺と美希ちゃんが二人だけになるように配慮よろしくな!」
そう言うと今泉はいきなり
「じゃあ、美希ちゃん行こ!」
とあっさり橋本ちゃんを下の名前で呼んで歩き出した。
それからも事あるごとに「美希ちゃん」「美希ちゃん」と連呼している。
少しばかり節操が無いなと思いながらも、僕にもそんな度胸や勇気があればなと羨ましく思った。
『上山さん』じゃなくて『京子さん』て呼べたら彼女との距離ももっと近くなれるかなぁ……。できれば『京子ちゃん』なんて、いやいや彼女は先輩なんだから『ちゃん』はマズいよなぁ。
独りよがりな妄想は止まらなくなる。
しばらく歩くと次第に前の二人との距離が開いてきた。今泉の作戦もあるのだろうが、僕の横を歩く上山さんが少し辛そうだ。
「上山さん大丈夫ですか?少し休憩しましょっか」
「ごめんなさい、ちょっと運動不足で……」
てへっと笑う顔が僕の心をあっさり射抜く。こんなの反則だ……。
「私、こういうの駄目なんです。紫外線に弱いからどうしてもインドア中心の生活になっちゃって普段から全然出歩かないので」
「そうなんですか。だったら無理しなくても良かったのに」
「ううん、だって今泉さんも橋本ちゃんも楽しそうだったから。そこで私が行かないって言ったら申し訳ないなって」
少し寂しそうな顔で呟いた。
「上山さんてそういう人なんですね。俺、そういうとこが好……、いや、あの、そういう人っていいなって思います、うん」
つい本音が出そうになり、慌てて言い直した。
そして誤魔化すように
「あ、飴ちゃんどうぞ。疲れたときはカロリー補給ですよ」
と言ってポケットに手を突っ込んで、飴を差し出した。
「うふふっ」
上山さんははにかむように笑うと、色が濃くなっていたメガネをひょいと持ち上げてその瞳を僕に向けると
「ありがと」
と囁いた。
ちょっと距離が縮まったかなと喜んでいると、先行していた橋本ちゃんが戻ってきた。ペースの遅い僕らを心配したらしい。
「京子さん、大丈夫?」
「うん、大丈夫。少し休んだし、三上さんから飴ちゃん貰ったから」
「そっか。それなら良かった。じゃあみんなでゆっくり行きましょ」
橋本ちゃんの元気に引っ張られるように上山さんも元気になった。
前を歩く今泉と橋本ちゃんの会話を、上山さんはニコニコしながら楽しそうに聞いていた。僕はといえば左に彼女を感じながら半歩後ろを歩く。そしてバレないように彼女の笑顔をずっと見ていた。それだけで幸せだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます