悪魔召喚

悪魔召喚

　この儀式には三分以内にやらなければならないことがあった。

　まず儀式を行う時間帯は午前４時（ＧＭＴ＋０９：００）

　72℃まで温めた熱湯に長さ48mmの針を６秒だけ浸し、事前に北緯30°から北緯40°までにある店舗でＱＲコード決済で購入したホッキョクグマのぬいぐるみの、右脇から胸前を通るように左眼に刺して後頭部まで貫通させたのちに右眼からまた出しては左脇まで、つまり胸前にバツを作るようにして朱色（＃ｅｂ６１０１）のドイツ製の糸を通す。

　その後、東北東側に設置した直径１３６ｃｍの球体内に収まる大きさの手作り祭壇（出身国の木材製）にぬいぐるみを設置してから『キバスクルリュシュローキツニミュ』と一度も噛まずに36回、ぬいぐるみに背を向けながら三点倒立で唱える。

　詠唱終了後、新品のトイレットペーパー24ロール２枚重ねの袋を開けて、４ロールを一ミリも破かずに全部腕に巻き取ってから、今度は『ヌヒヌクルミュサノオツキミニュ』と62dBを維持しつつ18回唱えながら反復横跳びを行う。

　すると、白い（＃ｆ７ｆ６ｆ５）煙がぬいぐるみの右乳首から出てくるので、左の鼻穴だけで自分の肺が満たされたぁくらいのイメージ量を吸い取ってから『デーモン召喚』と大声（67dB以上）で叫ぶと、悪魔が召喚される──

　三分以内にやることが多すぎる……！

　あと、細かい……！！　なんだこのワザップみたいな方法は！

　こんな眉唾物の噂、天下一品な阿呆でもやらないだろう。

　しかし、もう私にはこれに頼るしか他なかった。

　私を虐めた中学時代の同級生（もう高校まで卒業して完全に疎遠だけど）、私を見捨てた担任の先生（定年退職後、病気で亡くなったみたいだけど）、そしてこんな私を産み落とした両親（特殊詐欺で二人とも捕まったけど）に必ず復讐するために……！

　挑戦開始から記念すべき６６６回目。９年が経過してようやく儀式を成功させたのだ！

　ホッキョクグマのぬいぐるみが黒く染まり、グジュグジュに溶けると、ぬいぐるみだった物は悪魔へと形を変える──

『ほぉ、このオレサマを喚び出すなんて奴がいたんだなぁ？』

「や、やっと悪魔に逢えた！　わ、私の願いを聞き入れ──」

『オマエ暇すぎかよ、バカじゃーん。さて、悪魔界でカップラーメン作ってるんだわ。もう戻るぜ、じゃあなー』

　それだけ言って悪魔は元の世界に還った。

　……え、終わり？　これだけ……？

　確かに悪魔召喚の噂は真実ではあった。

　けど、これじゃあまりにも私が報われない。

　こんなの、こんなのって……

「クソがぁぁぁぁ！！　もう全部破壊しつくしてやるわぁ！　うわぁぁぁぁああああ！！！！」

　こうして捨てるものが何もなくなった女は、９年間で身につけた力と俊敏性と滑舌を武器に、史上最悪の犯罪者──通称『悪魔』として世間を震撼させる事件を起こすのであった。

　──悪魔というのは、もしかして人間のことを指すのかもしれませんね。

　次に悪魔となるのは、あなたかもしれませんよ。