前編: 「忍者の試練」

摩天楼の谷間を抜け、杏子と美沙子は静かな住宅街に差し掛かった。夜の空気は冷たく、街灯の下の彼女たちの影が長く伸びていた。ふたりは伝説の話で少し気が紛れていたが、心の奥底では不安が渦巻いていた。


「美沙子、早く帰りたいね。」杏子が速足になる。美沙子も同意し、ふたりの歩みはさらに早くなった。


すると突然、後ろから何者かの気配を感じた。振り返ると、そこには黒い装束を纏った人影が立っていた。その人影は、動かない。ただ、彼女たちを見つめている。


「あ、あれは…」美沙子が小さな声で杏子に耳打ちした。


杏子は勇気を出して声をかけた。「あなたは、誰?」


人影は静かに前に歩み出ると、クナイを手に取り、その刃を見つめながら、静かに言った。「切れ味を試してもいいか?」


その声は冷たく、しかし、どこか悲しみを含んでいた。杏子と美沙子は固まった。伝説が現実になった瞬間だった。


「こ、これが試練ってやつ…?」美沙子が震える声で言った。


杏子は深呼吸をして、冷静さを保とうとした。彼女は忍者の亡霊をじっと見つめ返し、言葉を選んだ。「私たちは、あなたに何もできません。どうぞ、私たちを通してください。」


しかし、忍者の亡霊は動じない。彼の目は依然としてふたりを捉えていた。


「答えはそれでいいのか?」忍者の声が再び響いた。


杏子と美沙子は互いに顔を見合わせた。この状況から抜け出す方法を模索していた。しかし、どう答えていいのか、正解がわからない。


突然、美沙子が思い出したように口を開いた。「あなたには、切れない!」彼女の声は意外にも強かった。


忍者の亡霊は一瞬、動きを止めた。そして、ゆっくりとクナイを下ろし、深く頭を垂れた。


「そうか…」とだけ言うと、亡霊は霧のように消えていった。


ふたりは息を呑んだ。恐怖と安堵が入り混じった感情が、彼女たちを包み込む。杏子が美沙子の手を握り、ふたりは再び歩き始めた。何も言葉はいらなかった。ただ、ふたりの絆が、この試練を乗り越えたことを感じていた。


夜は更けていくが、ふたりにとって、この夜はただの夜ではなくなっていた。試練を乗り越えたことで、彼女たちの間には新たな絆が生まれ、それは彼女たちを変えていくことになる。


終わり

前編は、杏子と美沙子が直面した忍者の亡霊との試練を通じて、彼女たちの勇気と絆の強さを試す物語です。この試練は、彼女たちにとって重要な転機となり、物語を次なる段階へと導きます。

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