第25話『スクナとガマンメンタム』

勇者乙の天路歴程


025『スクナとガマンメンタム』 


 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者





「悪気が無いのは分かっているよ」



 最初に、そう言ってやると、不貞腐れた表情に少しだけ緩みが出てくる。


 相手に少しだけ逃げ道を残しておくのが生徒指導の要諦だ。


 見るからにメンドクサソウな顔をしたスクナは、通り一遍のお願いでは協力してくれないような気がしている。

 さりとて、力技で従わせるのも面倒だし、教師人生の半分を生活指導でやってきた勘が――まずは穏やかに――と言っている。


 それに、スクナを捕まえてきたビクニは気弱な静岡あやねの姿では無く強気の少佐の姿だ。二人ともがプレッシャーをかけては頑なになるばかりだろう。


「あそこはさ、裏口だけど、開けたら自動で閉まるようにできてたのよ。ドアの上にシリンダーみたいなの付いてるっしょ。それが、八十神たち……大国主の兄貴どもが帰っていくときに乱暴に開け閉めしたんでバカになっちゃってさ。フラれた腹いせなんだろうけど、いい迷惑よ。ソロっと開けたら閉まるんだけどさ、目いっぱい開けたら閉まらなくて。ソロっとやったつもりなんだよ、いや、ソロっとだったよ」


「あれが、ソロっとか!」


「こ、怖えなあ」


「ビクニ、取りあえず東に向かおうと思うんだけど、ちょっとあの岩の上から様子を見ておいてくれませんか」


「あ、ああ、そうだな」


 ビクニも状況は掴んでくれたようだ。


「ところで、スクナは少彦名さんのお身内じゃないのかい?」


「か、関係ねえよ……」


「そうですか、名前とかが似てるもので。いや、違っていてもいいんだ。見たところ地元の人という感じでしょ。バイトというのはどこかの医院で看護助手とかかな?」


「あ、これは違くて、軟膏の販売員」


「ああ、メンソ〇ータム」


「じゃなくて、課長代理が作ったのを……」


「あ、そうか。皮を剥かれて治した時の……」


「うん、あのガマの穂の成分で作った軟膏……ほら」


 カバンから出して見せてくれたパッケージには『ガマンメンタム』とある。


「そうか……でも、一人で売るのは大変でしょう」


「え、あ、まあ……」


「じゃあ決まりだ。この度が成就すれば……」


「成就すればぁ?」


「きっといいことがある」


「……なんかあやしい」


「じゃあ、やめとく?」


「ううん……まあ、姫さまが宮殿の中まで入れた人だしなあ……」



『中村ぁ、東南の方角に村が見えてきたぞー!』



 ビクニが呼ばわって、旅の続きは三人になった。




☆彡 主な登場人物 


中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者

高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま

八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖

原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長

末吉 大輔       二代目学食のオヤジ

静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒

ヤガミヒメ      大国主の最初の妻 白兎のボス

ヒコナ        ヤガミヒメの新米侍女

因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ

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