第26話『始まりの村風の広場にて』 

勇者乙の天路歴程


026『始まりの村風の広場にて』 


 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者





 画像生成AIに―― 始まりの村 国籍不明 ――と打ち込んだら出てきそうな村だ。


 

 村の入り口には焼き肉屋の前にありそうな道祖神風の石像があって、ビギナーの冒険者に「覚悟はいいか」と脅している。

 家々の屋根は切妻か入母屋の和風だが、棟や軒端が微妙に反っていて、軒端にランタンが吊ってあるところなど中国風。いくつかの家は白壁にオレンジ色の瓦が載って南フランスを思わせるが、あちこちに立っている幟やランタンの文字は漢字風やらチベット文字風でFFⅩの門前町と見紛う。

 

 村の中央あたりには教会の尖塔と五重塔が並んでいるが、よく見ると、尖塔の先には九輪と水煙、五重塔には十字架とチグハグ。


 道祖神風の脇を通ると、なぜか穴が掘ってある。


「落とし穴かなあ?」


 ヒコナが首をかしげると、少佐のビクニが向こうの広場の方に目を向ける。


「なにか揉めているようだ」


「え、なんかお祭り!?」


 初めての村でうかつに動くのは憚られ、広場の入り口で様子を見る。


『やっぱり、鳥居が無いと締まりがねえ』


『だから、村の入り口に』


『あそこには、もう道祖神があるべ』


『入口なら、広場の方がよかんべ』


『村の入り口なら、もう穴掘ってあるべ』


『穴なんか埋めちまえばいいべ』


『したども、五人がかりで丸二日かけて掘った穴だぞ』


『先走って掘っちゃダメだべや』


『したども……』


 どうやら、鳥居をどこに立てようかと相談している様子だ。十人余りの男たちが数本の角材やら丸材、おそらくは組み立て前の鳥居を前にして深刻そうに話をしている。真ん中で村長風が腕組みして困っている。


「あまり見ない方がいい、我々はよそ者だ。それより情報を収集しよう」


 ビクニが指差して、向こうのギルド風の二階建てを目指す。


「あ、だんご屋!」


「あとだ」


「テイクアウトすればいいだろぉ!」


 ナース服の腕をブンブン振って抗議するヒコナ。赤十字の腕章がグルグル回って可愛い。


「食い意地ばっかりの奴は置いていくぞ」


「じゃ、あっちのクレープ屋! タコ焼き屋でもいい!」


「引っ張るな」


 ペシ


 手を払いのけるビクニ。少佐になると容赦がない。


「ム~、可愛くないよ、お宮に連れてきてたJKの方が可愛かった」


「アハハ、同一人物なんですよ」


「え、ほんとか( ゚Д゚)!?」


「フフ、ガキナースに見透かされるほど安くは無い。いくぞ」



 ビクニが言い切ると、男たちの中から村長風が駆け寄ってきた。



「あの、もし、あなた方は薩摩守(さつまのかみ)さまの御先駆けの方々でしょうか!?」


 え?


 我々を見る村長風の目は困惑と畏れに満ちていた……。


 


☆彡 主な登場人物 


中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者

高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま

八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖

原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長

末吉 大輔       二代目学食のオヤジ

静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒

ヤガミヒメ      大国主の最初の妻 白兎のボス

ヒコナ        ヤガミヒメの新米侍女

因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る