第11話『視界が開けると糺の森に似て』
勇者乙の天路歴程
011『視界が開けると糺の森に似て』
森の出現に歩みを止めると、視界が開けてきた。
駅からここまで、見えているのは幼稚園の園庭ほどでしかなく、その周囲は霞が立ち込めたように煙っていた。
それが……
目の前に森が出現すると、俄かに開けて視界が東京ドームほどに広がった。
草原の左側には川が流れて、前方でYの字に分かれ、森はそのYの字に挟まれて奥に続いている様子だが霞に紛れてはっきりしない。
Yの字によって三分割された地面は橋によって結ばれて往来は自由のようだ。
Yの字の縦棒を跨ぐ橋に行って森を見晴るかすと既視感がある。
「糺の森に似ています」
ビクニの言葉で既視感はデジャブではなく記憶として蘇ってきた。
子どもの頃は親父に連れられて、高校生の頃は友だちといっしょに、学校を出てからも友人たちと、職に着いてからは生徒を引率して遠足で。
遠足の時は出町柳で京阪を降りて十分ほどで、それ以前は三条で降りて川端通りを歩いた……そうか、いままで歩いてきた道は川端通りにあたる。
「いいえ、あそこまでは安達ケ原です」
「アハハ、そうだったな」
「デジャブはわたしです」
「え?」
「見たもの出会ったものによって姿が変わる」
「あ、そうだったな」
「あれ……奥さんとは来てないんですね?」
「え、読んでるの!?」
思わず胸を押えてしまう。
「すみません、見えてしまうもんで(^_^;)」
ムニュムニュムニュ……糺の森や下賀茂神社、出町柳、双ヶ岡、百万遍、京都大学……近辺での思い出が雨後の筍のように首を出す。その都度、ビクニの顔もムニュムニュ蠢く。
「こ、ここは、小説とかアニメとかでもよく出てくるからねえ(;'∀')!」
記憶をアニメに切り替えると、川の中の飛び石をアニメのキャラがピョンピョンと渡って行った。
軽音部のキャラに変わりそうになって、ビクニが宣言する。
「さ、先にいきましょう!」
宣言して顔をつるりと撫でると、元の静岡あやねに戻って先をいく。
橋を戻って、今度はYの字の右上、リアルの地図で言えば出町橋を渡って糺の森の正面に出る。
朱塗りの大鳥居があって、その向こうは下賀茂神社の参道と思いきや、森の中の一本道。
「冷やかしは終わったようだね」
「はい、いよいよ本編のようです。油断しないでいきましょう」
糺の森は東京ドーム三つ分くらいだが、その十倍ほどの道を行くと、森の切れ間の向こう、木の間隠れに、また川が見えてきた。
え…………?
今度は、黄河か揚子江かというような巨大河川だった。
☆彡 主な登場人物
中村 一郎 71歳の老教師
高御産巣日神 タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
八百比丘尼 タカムスビノカミに身を寄せている半妖
原田 光子 中村の教え子で、定年前の校長
末吉 大輔 二代目学食のオヤジ
静岡 あやね なんとか仮進級した女生徒
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