第12話『三途の川・1』

勇者乙の天路歴程


012『三途の川・1』  


※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者



 


「三途の川だ」



 キリリとした声に振り返ると、戦闘服に身を包んだショートヘアの女が自動小銃を構えて立っている。


「え……?」


「なにを驚いている、見た目はコロコロ変わると言っただろうが」


「ビクニなのか?」


 それには答えずに銃を構えて周囲を警戒している。


 ついさっきまでの静岡あやね、その清楚ではあるがどこかオドオドしたような少女ではない。『少佐』という通称が似つかわしい女偉丈夫。


「三途の川と言えば分かるな?」


「此岸と彼岸の境目、これを渡れば地獄だ……」


「なにをゴソゴソしている」


「三途の川なら渡し賃がいるだろ……」


「バカか、ここを渡ってしまったら地獄だぞ」


「渡るんじゃないのか?」


「どこかに天路歴程行きの船着き場がある、そこから川をさかのぼる」


 ガチャリ


 槓桿をひく少佐、いやビクニ、臨戦態勢だ。


「自分の身は自分で守れ、おまえの武器は、そのオリハルコンの剣だ。敵認定したら迷わずに、そのオリハルコンを抜け」


「あ、ああ」


「ちょっと頼りないなあ……よし、少し練習をしておこう」


「チュートリアルか」


「ああ、だが、ポイントがつく」


「楽〇ポイントか?」


「〇天路ポイントだ。 貯まればレベルが上がったりアイテムと交換できる」


「スーパーとかでも使えるのかなあ?」


「いくぞ」


 少佐……ビクニが手を上げると、河原に人形(ひとがた)の影が現れた。手に長い剣を持っている。形と動きはイッチョマエだが影なので、あまり怖くはない。


「始め!」


 ビクニが声を上げると、とっさにわたしはオリハルコンを抜いたまま河原を走った。


 ザザザザザザザ


 影も同時に走り出す。


 ザザザザザザザ


 予測していたわけではない、イメージが湧いたのだ。


 巌流島のイメージだ!


 すると、並行して走っている影は高倉健の佐々木小次郎の姿になった!


 ふと、手にしたオリハルコンの感触が変わった。それは、神が与えたもうたアトランティスの玉鋼の剣ではなく武蔵が小船の中で櫂を削って作った木刀だ。


 そうだ、決め台詞があった。


「小次郎、貴様はもう破れている!」


『なにを言う、刃も交えずに喝破するとは匹夫のハッタリ、見苦しいわ!』


「そっちこそ見苦しい! 勝負もつかぬのに鞘を捨てるとは、すでに心が負けておるわ!」


『なに!?』


 チェストー!


 一瞬の隙を突いて跳躍、小次郎の太刀が閃くが、武蔵の木刀は小次郎の脳天に一撃を決める!


 ズサ!


 着地すると、一呼吸おいて小次郎の鉢巻きは明けに染まって、武蔵の背後でドウっと倒れる。


 決まった(-_-;)!



 パチ パチ パチ



「え、なんだ、その気のない拍手は?」


「宮本武蔵でかっこつけるのはいいけどな……」


「なんだ、古臭いとでもいうのか?」


「巌流島の武蔵にしたのは、真剣が怖いからということの言いわけ、置き換えだ。それに、武蔵は作州浪人『チェストー!』とは言わんだろ。まあ、人を殺したことが無いのだから仕方がないけどなぁ……ポイントはこんなものかぁ」


 シャキン


 目の前に『5』という数字が現れて『レベル3・半歩踏み出した勇者』という称号が続いた。


「いくぞ」


 ウウ……少佐のビクニは目も合わさずに、再び森の中に入っていく。


「河原を行かないのか?」


「その腕では、まだまだ姿を隠しながらだ」


「そ、そうか……」


 再びの森は蚊が飛んでいて、あちこち咬まれる。


「ほれ、5ポイント分の景品だ」


 振り向きもしないで投げてよこしたのは虫刺されのスプレーだった(^_^;)。




☆彡 主な登場人物 


中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者

高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま

八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖

原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長

末吉 大輔       二代目学食のオヤジ

静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒

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