第5話

(さすがに恥ずかしいしやめておくか)

そこで呂布奉先は急に思い出したかのように陳宮にある物を尋ねる事にした。

「実は君に一つ頼みたい事があるんだ」

そう言って俺は一枚の手紙を渡した。少し不思議そうな顔をしながら受け取った陳宮だが、中を見ると慌てて視線をこちらに向ける。

「これはどう言う事ですか?」

当然の疑問であろう。

何故なら俺こと呂布奉先が関羽に宛てた手紙だったからだ。

「いやね、暫く関羽は君と離れる事になるだろうし、今のうちにお願いしておいた方がいいと思って」

陳宮は悩む様に眉間に皺を寄せると何度か頷(うなず)く。

(流石の関羽も騙されないか)

そこで俺が具体的な内容を告げると、陳宮は目を見開き俺の顔を見つめた。

「本気で言っているのですか?」

「ああ」と答えて頷くと陳宮はしばらく考え込んでいたが最後には納得したようだ。

「分かりました、それとなく伝えるだけ伝えましょう」

俺はそんな陳宮に対して小声で言う。

「関羽には言わないでくれ。俺が関羽を試す材料にしたいんだ」

俺の言葉に驚いて口を開こうとする陳宮を止めると真剣な表情で伝える。

「分かってくれ……いずれ俺たちの前に立ちはだかる関羽という猛将と戦えるかどうか……それを見極めたいんだ」

陳宮は少し考える素振りをするとゆっくりと頷いた。

「分かりました」

そんな陳宮に礼を言うと、俺はその場を離れた。

俺の次なる相手は関羽である。

張飛には勝ててもまだ勝てない相手がいるように、俺にもまだ勝てぬ敵がいるのだ。

今より10年ほど昔、劉備軍と共に黄巾党と戦った時に知った強さ。

それが関羽という男である。

あの当時、関羽の武勇は多少聞き及んではいたが所詮は田舎武人だと思っていた。

(でも今なら分かる)

関羽という男の実力を。

それなのに、その実力は未だ底が知れていないのだ。

そんな時、呂布奉先という強敵が現れたのだ。

俺は考えたあげく、陳宮に手紙を送った。

俺と孔明との同盟を白紙に返して欲しいという内容だ。

さらに関羽とは二度と会わないよう勧める内容も書き込んだ。

関羽は俺の誘いには必ず乗るだろうと思っていたので、出来ればこの手紙を孔明から渡して欲しいのだ。

俺が孔明に頼んだ時、意外な返事であった。

「承知致しましたが、条件があります」

孔明が言う条件とは劉備の身の安全を保証する事である。

(なるほどな、裏切らぬと言いたいわけか)

俺としては劉備を守ろうが裏切ろうが関係なかったが、孔明からの頼みでは仕方がない。

「分かった、約束しよう」

俺の返事を聞くと孔明は頭を下げると急いで去っていった。

(そんなに劉備が心配か?)

そんな事を考えつつ俺は劉備の所へ歩いて行った。

蜀王こと劉玄徳は百官や武将を謁見の間に呼び集めていた。

その中には曹操軍の諸将たちもいた。

最後に現れたのは諸葛亮と関羽である。

その時、謁見の間を異様な緊張が支配していた。

特に関羽にとっては黄巾党討伐以来の劉玄徳との再会であったからだ。

「皆の者、よく集まってくれた」

そこで劉備は深く頭を下げると皆に礼の言葉を述べた。そして言葉を続ける。

「私がこの世界に呼び出された時、様々な困難があった」

そんな劉備の言葉に異を唱えるものがいた。

曹操軍の武将である夏侯惇だった。

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