木目

双葉紫明

第1話

キメッ!

ダッシュ勝平。

KAPPEI。

名作多し。

関係ないや。

もくめ。

怖い話。


誰かが見ている。

僕なんか、とは思う。

怖いんだ、なんだか、怖いんだ。


貧しさは罪なり。

けど幸いな事に、僕らが住んでた四畳半二間の貧乏長屋にそいつは居なかった。

畳、襖、無機質な天井。


おばあちゃん家が好きだった。

僕の叔父にあたる、らしいけども、祖母が再婚してるおかげでフクザツな関係性の若者、ユウちゃん。

彼の部屋に、忍び込む。

彼はムー民だ。

だから、僕はそこで貪り読んだ。

あの三角の中の目。

心霊、UFO、UMAに古代文明。

逃げたかった僕。


そんなせいか。

おばあちゃんちで横になる。

見てる。

僕を。

天井の木目。

今光ったよ!動いたよ!


それから僕は、ユウちゃんと同じ若者に。

なった。

忘れていた。

忘れっちまえばゆるされた。


結婚して、子供が出来て、事業を始めて、失敗して、離婚して、交通事故で死にかけて、スズメバチに刺されて、借金で追い込まれて、まだ生きてる。

親から逃げ出し、好きにやって、元妻に拾われて、また好きにやって、貧乏。

救いはない。


払わないといけない金を払わない。

いくら働いても、追い付かない。

悪くなるばかり。

あれから時々。

生きてるべきだか悩むんだ。

生きていたいから怖かった。

木目、一晩中。

僕を見ていた。


今はひとり。

僕の店は、ウッドハウス。

そこに住所を移した。


天井にも壁にも床にも便所にもキッチンにもテーブルにも椅子にも、木目。

無数の。

木目。

じっと、見ている。

たくさんの人たちの、目が。

ずっと、僕を見ている。

まだ生きてんのか?


ずっと、見られてるんだ。

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木目 双葉紫明 @futabasimei

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