第25話

 漸くモンチからの連絡があったのは、それから二週間経ってからのことだった。店の片付けを終えて、自室でマッタリしていた時に電話が掛かって来たのである。


 「大丈夫か……?」


 「うん、まあ、私は大丈夫」


 先日とは違い、モンチの声は比較的落ち着きを取り戻していた。


 「こんな時、何て言えば良いのか判らないけど……、ご愁傷様だったな。とりあえず急なことだから、落ち着いたら墓参りにも行かせて貰らおうと思ってるよ」


 「……」


 「……やっぱり元気ないな」


 「違うのよ……」


 「何なら今から飲みにでも行くか? 明日、オレ休みだぞ。不謹慎かもしれないけど、こんな時はパッとやった方が気も晴れるんじゃないか? まあオレは飲めないけどな」


 「だから違うのよ。話そうとしたら、好き勝手捲くし立てるから、ぜんぜん話せないじゃない」


 「いや、捲くし立てているつもりはないが……」


 「生きているの」


 「えっ?」


 「だから佐伯さん死んでないよ。もう普通に生活しているみたい」


 「ふぅ~ん。まあ、なら…良かった……のかな??」


 「なんかさ、他に好きな人が出来たんだって」


 なんだ? それ……。


 「ヒロインが現れたのか?」


 「ヒロイン?」


 「つまり――サヤ・モンチッチ―ブライダル企画主任令嬢、お前には悪いが! 私は真実の愛に気づいてしまった。婚約破棄をしてくれ――とかなんとか?」


 「なによソレ。漫画の話?」


 「おい、オレが漫画一辺倒だと思うなよ。最近は異世界ラノベも好きなんだよ」


 「ふ~ん。でも、まあ、そう言われてた方がマシだったかも。自殺なんかされるより……」


 「ん~、まあ、そうだな~」


 「彼ね、私に指一本触れてこなかったのよね……。今となって思えば、――あーそう言うことだったのか――って……」


 「ん~、まあ、そうだな~」


 「大切にされているんだと勘違いしてたんだけど……」


 「ん~、まあ、そうだな~」


 「今は、結婚する前で良かったって……思ってるけどね」


 「ん~、まあ、そうだな~」


 「ねえ、ちゃんと聞いている?」


 「ん~、まあ、そうだな~」


 「ちゃんと話、聞けよ!」


 「それにしても不可解だよな~。自殺するような雰囲気は全くなかったけどな」


 「とにかく――結婚も結婚式も完全に無くなった――っていう、お知らせの電話」


 オレとしても、散々式場見学に付き合わされ、さらには見越していた売上もなくなったわけだから、かなり損した気分だが、さすがにそれをモンチには言えなかった。


 「了解した。まあ元気だせよ。じゃーな」


 「ちょっと! ――じゃーな――じゃないでしょ!」


 「え?」


 「今から出て来れる?」


 「……」


 「出て来れるよね? さっき――今から飲みにでも行くか?――って言ったよね」


 「えぇーー、でも、だって、もう歯を磨いちゃったし。また今度ということで……」


 「元カノが傷心してるんだけど! 明日、お休みなんだよね?」


 「チッ……」


 「今、舌打ちした?」


 「してませんよ。はいはい、行きます、行きますよ」


 それからリビングで寛ぐ母に――佐伯が生きていること。そしてモンチの結婚が白紙になったこと――を簡単に知らせると、ソファーに寝転がってテレビを観ていた妹が、「よっしゃー」となぜか歓声を上げた。


 妹よ。ま、まさか、お前が……ヒロイン? いやいや、そんなはずはない……と思いたい。

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