第5話 北向き、マツリ


  北向き、マツリ


 オーキナに連れられて、わたしは九階の、東の端の角部屋に招かれた。その部屋はどうも、この建物のなかでは一番良い部屋らしかった。入口の間隔からして、他の部屋の二倍の大きさがある。他の部屋と同様に、部屋中に蔓木が巡っていたが、自然の荒々しさは見えず、むしろ整然としていた。どこか現代的な、新しい考えによって生み出された住居――カルチャー雑誌の表紙にでも載りそうな印象が、無いでもなかった。

 物品も色々なものがあった。衝立や帳、食器類、大きな行李など、どれも土や枝で出来ていても、すべてがデザインされていた。紋様や蔓の編み方など、明らかに実用以上のものを求めており、それが表出していた。もしもこの部屋を、高級ブティックの並ぶ街の、静かなところに据えれば、結構な人が感銘を受けるかもしれない。原始アフリカから発掘されたモダンアートのような、根源的な、少なくともある一貫した美意識が空間に漂っているようだった。

 わたしは蔦を編んだ敷物の上に座り、前の囲炉裏の縁取りを見ていた。そこには彫り物がしてあった。身体にじっとりとした汗を感じながら、薪の火があたる縁の、何か草か、波か、鳥の彫り抜いてある影を、まるでそれしかないかのように見つめていた。薄暗い部屋の中で、正方形に近い囲炉裏の辺には、ヒトが座っていた。わたしの左――部屋の奥、北側にはオーキナが蓆の上で足を組んでおり、その背後でカツミが片膝を立てていた。わたしの対面には、「女」が鎮座して、その後ろや周りに若い女性が四、五人待機していた。そしてわたしの右手には――数十人の集団が部屋中一杯に座っていた。なるべく多く部屋に入れるようにと、集会のように規則正しい列をなして部屋に収まっていた。しかしそれでも入り切れないらしく、廊下の外まで、玄関の枠に押し合って立ちながら、こちらの方を覗いているヒトも居た。

 ここに来て、わたしはこの世界の異常さ――あるいは常識――を知った。カツミの身長は、わたしより背が低い、おそらく150センチぐらいだった。オーキナはそれより十センチほど低い、ずいぶん背の低い老人だなと思った。しかしそれは間違っていた。ここに居るヒト達は皆、わたしの胸か、腹ぐらいの高さしかなかった。つまり、どの人間もどの人間も子供くらいの背丈だった。しかし子供ではない。身体には毛が生え、男の顔には過ぎた年月を表す皺が刻み込まれていたし、女も、上半身裸で、腰には丸みがあり成熟した体つきをしていた。茶色に焼けた肌の、このヒトたちは奇怪だった。下手糞なコラージュのように不自然だった。顔は大人だ。体つきや態度や物腰も。ただサイズだけが違う。そのただサイズだけが違うというのが、何か、わたしに言いようのない不快感を起こさせた。逆にもっと違っていれば、もっと「わたしの世界の人間」から遠ければ、冷静に見られるかもしれないが――彼らは何をしているわけでもないけれど、わたしは彼らに見られていると、まるで泥だらけの靴で自分の部屋に勝手に上がりこまれたような気持になった。

「ではトムジ」

 オーキナは、わたしの前の「女」に呼びかけた。トムジと呼ばれたその女はもう一人後ろに居た女性を従えて、部屋の奥のバルコニーの方に行った。トムジの風貌は、縦よりも横に広そうな肥満体の中年女性だった。足は股から生えた土嚢のようであり、でっぷりとした腹と腕を付け、首は無いも同然だった。肩は幅広く、大きな顔から伸びた長い黒髪が、座ると膝まで届いているのを見た。その髪は年齢と言う意味でもアンバランスで、はっきり言えば醜かった。脇を始め身体には毛が生えており、大きな胸が弾力を失って垂れ下っているのを、隠す服も無いのか露わにしていた。

 トムジは金魚鉢のような大きく深い土器を両手で捧げるように持って運び、またわたしの正面に座ると、器をオーキナに渡した。トムジに付いていた女性は褐色の肌の、瞳の涼しい、若く綺麗な容姿をしていた。腕に絡むような優美な黒髪に、体つきはなまめかしく、柔らかい腰つきと大きな胸を露わにしていた。しかしそれが際立って背の小さい、十歳くらいの子の大きさに詰め込まれていた。不自然だった。それは変態性欲者のために作られた、ポルノグラフィーを思わせる姿だった。

 オーキナはまるで祈りのように両手で器を持ち、頭の上に捧げると――驚いたことにその器をわたしに差し出した。オーキナは皺のある優しい目つきで両手をつき出したので、わたしは自然にそれを受け取ってしまった。深い器のなかにはなみなみと液体が入っていて重かった。このときには、わたしはある程度は感づいていた。過去に自分が居合わせた経験は無いけれど、今やっているのは宗教的な何らかの儀式、あるいは儀礼だと分かった。でも、だからどうしろと言うのだろう。わたしはこの儀式の作法を知らないし、教わってもいない。そして、わたしをとても息苦しくさせたのが、周囲の異常なまでの注目だった。部屋中の全ての目が緊張し、わたしの一挙手一投足を逃すまいとしていた。視線が、露わになっている自分の腕に刺さり、首や全身の皮膚から伝わってきた。何を言うのも憚られた。わたしはオーキナと同じように器を持った両手を前に高く上げ、部屋の中心のさらに高いところ、ほとんど空の天頂にでも捧げるように腕を伸ばした。部屋は息をのむような緊張が漲っていたが、そのときに、誰かの、溜息のような声の漏れる音がした。わたしはまるでそれを合図にしたかのように、ゆっくりと両腕を下ろした。ゆっくり、胸の前まで下げると、なかの液体が揺らいでいた。オーキナが口を開いた。

「お上がり下さい」

 わたしは再び、器のなかの液体を見た。土器の色でよく分からないが水では無いらしい。わたしは顔を近づけ、それとなくにおいを嗅いだ。少し、野花のような匂いがした。わたしは周囲の針のような視線を感じていた。もしかして、中はお酒ではないかと推量したけれど、だからといって飲まないわけには行きそうも無かった。

 わたしは器を上げ、静かに口をつけた。一口だけ飲んでみた。匂いと同じ程度の酸味があり、とろりとした薄い花の香りが鼻腔を抜けた。甘くはない。微かに渋みもするがお茶のようでもない。しかしお酒かどうかは分からなかった。

 一口飲んで、顔から器を下げてオーキナの方を見たが、何かもう少し飲んで欲しそうな顔をしていた。いや、この場では誰もそんなあからさまな行動はしないが、オーキナとわたしの間の空気のようなものが、そんな風に変わったのを感じ取った。人間にそういうのを感じる知覚が、もしあるとするなら、この場はわたしのそれをさらに鋭敏にしているらしい。夜の暗さに、囲炉裏の炎が部屋を照らし、バルコニーの奥からは、何か甘い薫りのする烟が薄く漂っていた。わたしはもう二口飲んでオーキナに器を返した。美味しくはないけれど、特別不味くもないので飲めなくはなかった。

 オーキナは満足そうに器を取り、今度は自分も飲んだ。ひとりで全部飲む液体の量じゃないと思っていたが、ぐびりと何口か飲むとオーキナはその器をトムジに渡した。トムジは受け取ると、両腕で器を掲げ、下ろしてそれを飲んだ。一連の作法のなかで威圧感が何倍にもいや増していた。彼女は器をカツミに手渡した。カツミはトムジのところに膝をすりながら寄り、同じような手順で中の液体を飲んだ。

 そのあとは、カツミはさきほどトムジに連れ添っていた女性に渡し、そして次々と器はトムジの後ろに居る女性に渡った。そこまで済むと、今度は後ろに大勢居るヒトの間を廻っていった。器が廻るに従って、話し声こそしないものの、儀式の終わった人間から少しずつ空気が弛んでいくようだった。

 器は最後まで行き渡り――部屋の外に居たヒトはがやがやと騒ぎ立て、自分の所にも、と取っていたが――部屋のなかにいるヒトが全員飲んだのを切りに、オーキナが立ち上がった。

「それでは、飲んで喰うとしよう」

 笑いながら手を二度打ち、するとわたしの正面のトムジとその取り巻きの女性たちが部屋の奥や外に出て行った。場はにわかに活気づいた。わっという声とともに、興奮した話し声が聞こえる。オーキナは嬉しそうに、後ろのカツミと話していた。程なく、女たちが大皿を持ってやって来た。小さい子供のような姿に、皿はとても大きく見える。彼女たちの一人が、葉に包んだ円錐形のものを、わたしの前の枝を編んだ敷物に置いた。それだけすると、他のところにも行き、同じように銘々に配っていった。わたしは、その置かれたものを見た。何かどこかで見たことがある――と考えていると、中華料理屋の店先で見た、チマキに良く似ていた。笹のような、葉脈が平行な葉で包んでいるところも似ている。しかしこれは二回りか三回りほど大きい。そしてきれいな円錐形で、底面がでんと板の上に乗っていた。

 料理の大皿は囲炉裏のわたしたちの周りに置かれ、部屋の中で列になって座っていたヒト達も自由に移動し、料理を取っていた。わたしの分は、トムジの傍に居るきれいな女のヒトがひとつの皿に適当に盛り分け、渡してくれた。

「……ありがとうございます」

 小さい女のヒトはにっこりと微笑み、黒い瞳を余所に向けて、こんどは他のヒトの世話をしていた。やはり、圧倒的に大人の女性だった。丸みを帯びた体形、物腰。露わになった胸を見て、思わず目を下に落とした。わたしのほうが赤面しそうだ。小さな子供の体型で。頭がぐしゃぐしゃになりそうだった。

「さあ、喰って喰って。トムジ、二杯目をサンナサンに飲んでもらわんと」

 オーキナはわたしに料理を勧めた。わたしは改めて皿の上のものを見つめた。これが原始の食事なのか――だとすると決して悪くは無さそうだった。わたしは、分厚いローストビーフと言えなくもなさそうな肉のひと切れを手に取り、かじってみた。物凄く噛みごたえのある肉だが、飲み込めるまで咀嚼していると、口のなかに結構いい味が広がった。あまり食べたことはないが、羊の肉に似ているかも知れない。ちょっと獣の臭いがするが、それは旨味と言ってもいいほどで、肉を喰っているという感じがした。ただもう少し塩を振れればいいなと思った。

「さあ、どうぞ。遠慮しちゃ美味くない。お上がり下さい」

 オーキナは、先ほどと似ているが、少し小さな盃を差し出した。なみなみとは注いでおらず、半分ほどに液体が入っていた。わたしは思い切って聞いてみた。

「これはお酒なんですか」

 オーキナは少しおやと思ったようだが笑い皺のある表情を崩さず言った。

「ソウズケですよ。もう何百年も前に伝わったそうです。あなたさまはご存じない?」

「知らないです」

「もう何百年と前ですからなぁ。何千年かも知れない」

 オーキナは楽しげに話したので、わたしもぎこちなく笑った。オーキナは悠久の彼方に心を遊ばせているのかもしれないが、わたしにとってはいくらゼロが並んだところで、知りもしない他人の通帳を見るに等しかった。適当に合わせてぐびりとそのソウズケなるものを飲んだが、肉を食べたあとの口だからか悪くなかった。部屋の熱さに喉も乾いていたので、グラス一杯分くらい飲んだ。それでもさすがに全部は飲みきれないので、オーキナに器を返した。すみませんなと言って、オーキナはそれを美味しそうに飲んだ。やっぱりお酒なんじゃないだろうか。

 わたしは皿の上にある、何かどろどろと煮たものを見ていた。そして、それとまったく同じふうに、部屋のなかのヒトもわたしを見ていると感じた。好奇心と、何だかよく分からない怖れと疑問だ。賑やかな中でも、誰も彼もそれとなくわたしを見ているようだった。大人の顔が、小さい体で見ている。常にどこからか、誰かの注意がこちらに向いていた。最初ほどではないが、それでも緊張し、上がっていた。わたしは正面の、囲炉裏のパチパチとはぜる火を見ていた。

「おい、カツミ。お前、ねえさんとばかり話とらんで、サンナサンの相手をせい」

 わたしは自分の名前が出てぎくりとした。オーキナはカツミに呼びかけ、わたしとオーキナの間の床を手の平で叩いた。正確に言えば床に蔓延っている蔓を。カツミはわたしに料理を盛ってくれた女性と話していたが、わたしとオーキナの間に来て座った。あのヒトがお姉さんなのだろうかと、囲炉裏の向こうの座を見ていると、ふいにトムジと目が合った。わたしは素早く目を逸らした。

 オーキナは部屋の玄関のほうを回っている器を呼び寄せ、カツミにソウズケを勧めた。カツミはそれを何口か飲み、わたしの様子を窺ったが、わたしがいいよと言ったので、代わりにトムジに勧めた。どうも、ソウズケと言うのは皆で回して飲むものらしい。単に器が少ないだけなのかもしれないが。

「トギ喰わんのか」

 カツミは木の板に乗っている、円錐形の葉っぱの包みを指差した。これはトギと言うのか。わたしは巧妙に隠されている葉っぱの先を引っ張り出し、広げてみた。中身はでんぷん質の、小麦粉を練り上げて蒸したような、一面のぺっと、微妙につぶつぶとした白いものだった。カツミも自分のものを取って食べ出したので、わたしもその円錐の先の部分をかじってみた。ぼそぼそとした、まるで茹でたうどんを、時間を置いてもう一度こねたような感じだった。これは……全部食べられるだろうか。小麦粉とは違う味と香りがしたが、何の粉かは分からない。そば餅とか粟餅とか、前に食べたことが有るかもしれないし、そうでないかもしれない。

「あのヒトが、あなたのお姉さん?」わたしは正面を見て言った。

「そうじゃ上のねえさん。そこに居るのは皆ねえさんじゃ」

 カツミは囲炉裏のわたしの正面の座を指差した。今はそこにはカツミのお姉さんたちと、連れ合って男のヒトたちが居た。感じからすると旦那さんなのかもしれない。皆、先程から、好奇の目でこちらをちらりちらりと見ていたが、わたしとカツミが自分たちのことを話していると分かると、愛想良く笑った。しかし何か遠慮している感じはあった。彼らの合い間合い間に子供も居て、とくにトムジは抱き上げたりして世話をしていた。もちろん子供たちは、彼らのサイズに合わせて、さらに小さかった。腕に抱いている赤ん坊など、千グラムくらいしかないんじゃないか。まるでわたしの視界の、囲炉裏の正面が歪んで、デッサンが狂い距離感がずれたような家族団欒の光景だった。わたしはまた頭がくらくらした。まるでわたしの立っている、あるいは今座っているはずのこの位置が、どこにあるのか掴めない気分だった。

「どうだ、旨いか?」

 わたしが手持ちぶさたでもう一度かじった何やら分からないトギなるものを見て、カツミは言った。

「ええ、まあ……」

「さいか?あんまり旨いもんでもないじゃろ。わしは苦手じゃ」カツミは少し白い歯を見せ、言った。

「お前、なんちゅう失礼なことを言うんじゃ。よりにもよってサンナサンの前で」

 オーキナは真剣になってたしなめたが、カツミはどこ吹く風のように落ち着いていた。わたしは少し明るい気持になった。

「あなた、いくつ?」わたしはカツミに言った。

「歳か?十八じゃ」

「……」

 わたしは再び黙った。わたしが何か言うと、皆がぴたりと注意を向けるのだ。何か目に見える動作が有るわけではないが、否定しきれない空気の流れがある。わたしはまた、次の言葉を接ぐのを躊躇った。でも、わたしがそれで黙っていても、カツミは別に気にしないようだった。好きなように飲み食いしているように見える。カツミだけがこの場でわたしに頓着していない。それにカツミは、この中で、一番わたしのバランスを揺るがせない外見をしていた。言いかえれば、カツミの背恰好や姿が、一番わたしの常識に合っていて、何というかわたしの立っている根元をぐらつかせたりしなかった。確かにわたしより背が低いが、在りえない身長ではないし、それよりも顔つきや、それ以上に身に纏っている雰囲気がわたしを落ち着かせる。腹筋も割れ、腕や脚にもかなり筋肉が付いているし、顔は大人びているけれど、それは大きさと比較した許容範囲に、まあ収まっていた。しかし他のヒト達は違う。皺の多い、頬のたるんでいるコドモ。苦み走った顔つきのコドモ。頭髪が抜け落ち、髭づらのコドモ。皮の厚いコドモ。風雨に晒され続けたようなコドモ。子供を産んでいるコドモ。胸の大きく乳房の立ったコドモ。良妻賢母なコドモ。老いて醜くなったコドモ――そういうヒト達に囲まれていると、何が本当なのか、よく分からない気持がした。何だか自分が消えてしまうのではないか――というより、本当に自分は今ここに存在しているのだろうかという感じが、心のどこかに染み込んでいくように思えた。わたしは目の前の囲炉裏の火だけを見るようにした。炎の、赤々と燃えるのが顔に当たるような気がし、暑くぼんやりと上気した。

「サンナサンはいくつなんじゃ」

 カツミはわたしに聞いた。そのときしんと――辺りが静かになった。最初は囲炉裏の周りだけで玄関の方では話し声があったが、実感的には音よりも早く沈黙が伝わったような気がした。居たたまれない静けさなのに、わたしはなぜか次の言葉を言っていた。まるで誰かがわたしの口を使って言ったみたいに。

「そうね、いくつに見える」

「わからん、見当も付かん。一万歳とかか?」

 わたしはこの緊迫した雰囲気の上で、あははと笑いかけた――が、これは冗談などではなかった。周囲は何かお告げでも伺うかのようで、カツミもほとんど真理を問うような気持で言ったらしい。わたしは真剣に、馬鹿みたいなことを聞いた。

「一万歳だと思うの?」

「サンナサンのことなんて、わからんって。やっぱり何千年も生きとるもんなのか」

 わたしは目の前がぐらりとした。手を伸ばせば触れられるくらい近くにカツミが居て、その脇からオーキナがこちらを窺っている。オーキナの目は見開き、皺の入った褐色の肌と長い髭がざわついているようにも見える。

「あの……」

 オーキナは変わらずこちらを見ている。わたしはオーキナの目から、囲炉裏の奥に目を離した。部屋には、薪や、葉を燻した匂いのある煙が充満し、漂っている。火の奥の、トムジとその周りの女たち、夫に子供もこちらを見ている。子供のような大きさで。彼らの顔には炎があたり、こちらを見る何人もの顔の影が、一様に揺らいで動く。熱い。肌着のシャツが汗ばんでいる。わたしは右の方を見た。部屋中に雑然と座っている人達もみな、わたしを見ていた。こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと、こびと――こびとがこちらを見ている。わたしが息を飲んだとき、鼻からすっと烟の匂いが入って来た。もったりと甘い匂いだった。そのときふわりと身体が浮き上がった。わたしは縋るように左を見た。カツミの驚いた顔を見て、勢いよく手を差し伸べてくれたのが目に入った。そこまでが、わたしの見られたところだった。

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