想いの強さが形になる。

夕日ゆうや

ちょっと不思議

 カ=クヨムには三分以内にやらなければならないことがあった。

 それは小説の原稿執筆だ。

 納期は三分後。

 それまでに残り三千字。

「無理だ」

 いつも勝ち気な俺もさすがに音を上げる。

 パソコンと向き合いキーボードを打鍵する。

 打ち込んだ言葉を脳内で復唱する。

 集中力は上々。

 いつもよりもゾーンに入る時間が早かった。

 周囲と隔絶するための音楽もすでに聞こえていない。

 スラスラと流れていく電子モニター。

 漢字変換すらも遅く感じる。

 なおも続ける執筆。

 遠くに聞こえる催促の電話だが、今の俺には届かない。

 さらにグレードを上げる俺。


 精神世界。


 ゾーンを超え、人の身でありながら、人外の世界まで踏み込んだのだ。ここは人のいるべき世界ではない。

 そう感じた瞬間、亡くなったはずの祖父が現れる。

 そしてしきりに何かを訴えかけてくる。


 現実に引き戻されると、編集者からの催促の電話や、音楽、テレビの音、外で遊ぶ子どもたちの声まで聞こえてくる。

「小説は!?」

 俺は慌ててモニターにかじりつく。

 目標文字数をクリアしていた。

「じいちゃん……」

 俺は目を細める。

 一息つくと俺は編集者からの電話に出る。

「もしもし、ト=リさん?」

『ようやくつながった!』

 編集者さんはホッと安堵したため息を吐く。

『三日三晩、なんで出てくれないんですか?』

「え? 三日?」

 俺はカレンダーをみやる。

 確かに三日かかっていた。

 よく見ると小説の文字数も文庫本にして三冊分ある。

「すいません。執筆に集中してたみたいです」

『その様子だと大丈夫だね。すぐ送って』

「はい」

 春風が舞い、青空が広がっている。

 じいちゃんの墓参りに行くか。

 そうだ。久々に兄貴も誘おう。

 じいちゃんがわけてくれた、この想いを胸にし。

 いつだって見守ってくれているのだから。

 俺たちはいつも誰かに支えられているんだ。

 だから、返す時が来たのかもしれない。

 この未知の先に未来は続いている。

 過去を知り未来を望み、そうして守っていくのは俺たちなんだ。

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想いの強さが形になる。 夕日ゆうや @PT03wing

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