「仕事と私とどっちが大事?」って、言われる側だと面倒臭いものなんだね
朝のホームルーム。一人一人の名を呼び出欠確認をし終え、ルパージュ先生が名簿をぱたんと閉じた。
「今日もアリアナとエレナは家庭の事情で休み。後は全員揃っていますね。試験前なので体調に気をつけるように」
本当はベアトリーチェも居ないのだが、そこは当然、触れられない。体調に気をつけろも何も、そもそも、私以外のクラスの女子全員がここ何日も虚ろな目をしている。
異常すぎる状況に、泣きそうになる。
エレナがいなくても、一度かかった洗脳状態(?)は解けないらしい。皆、普通に授業を受けて、普通に生活して、普通に友達と話したりしているけれど、どこか上の空で、普通を演じているみたいだ。なにより、不自然なほど私に関わらないし、エレナの話題も口にしない。
先生、あなたの生徒たちおかしいよ。気付いてよお!
「一時限目科学ですが、誰か教材を運ぶ手伝いを……」
「私、やります!」
先生に相談するチャンスと思って名乗りを上げた。なにせ、科学室の一件以降、ルパージュ先生に関してマリウスがとても面倒臭い。「話すな、見るな、近付くな」と煩くて、その後の経過を訊く機会が持てなかったのだ。
「先生、エレナの家庭の事情って、何でしょうか?」
科学室に向かって歩きながら、隣を歩くルパージュ先生を見上げる。マリウスより背が低いのか、猫背だからか、少しだけ顔が近い。
「心配ですよね。先日のこともあったので、家庭訪問してきたのですが、エレナさんとは会えませんでした。今、ヒューズ邸には居ないそうです」
「え? 居ないのですか?」
「はい。ご友人と一緒に領地の視察に行っているとか。侯爵は行かずに、友人と…… ということは、侯爵家を継ぐお婿さん候補なのだろうな、と思ったので、深くは聞きませんでした。エレナさんが王太子妃になる予定が狂って大変なのでしょう」
私のせいですね。でも、婿候補? 突然過ぎはしないですかね? あの、娘大好き甘々侯爵様なら、「王室なんて面倒臭いところに嫁にやらなくて済んで良かった! いつまでも家にいて良いんだよ」と言いそうだ。
それとも、アリアナとのことがあって、娘との距離感が変わったのだろうか? だとしたら……
「ヒューズ侯爵もお忙しいようです。大分、虚ろな目をしていおられました」
ルパージュ先生の一言で、ゾクリと背中が寒くなった。
「虚ろな目……?」
「はい。そういえば、最近、クラスの女生徒達も同じような虚ろな目をしていますが、何か揉め事でもあるのですか? 誰も相談してくれなくて…… やはり私は担任として頼りないのでしょうか……」
だんだんと声が小さくなって、しおしおと項垂れるルパージュ先生には申し訳ないけれど、もう先生に構っている暇は無い。
「先生、エレナが一緒に領地へ向かった『友人』がどなたか、ご存知ですか?」
「ええ。上級生の、フランシス・カバネルです。あの生徒なら子爵家の次男で跡継ぎではありませんし、優秀ですし、侯爵の仕事を任せるのに良い人材ではないかと……」
良い人材!? エレナをを取り込む気だ! もうそんなところまで話が進んでいるなんて、ちっとも気付かなかった。マリウスにかまけていたせいで、完全に出遅れた。……なんて考えている時に限って、前方から件の人物が現れて、鉢合わせしたりして。
「クリスタ?」
「あ、あ、あ、あれ? マリウス様、もう一時限目始まりますよ?」
「遅刻した。クリスタは?」
「教材を取りに科学室まで行くところで…… えっと、ほら、美化委員としては、教材の片付けに責任がございますから!」
「片付けもクリスタがやるのか? ルパージュ先生と二人で?」
私と話していながらも、マリウスの視線はルパージュ先生に注がれている。というか、睨んでるよ。怖いよ。先生がますます小さくなってるよ!
あああ〜〜〜〜 なにこれ!
今、私、消えた友人を探す謎解き小説の主人公っぽいムーブに入ってると思うんですけど。恋愛と主人公の両立、むずいよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます