お城には泊まれませんよ?
城の書庫で調べても、収穫はあまり無かった。
まず、ヘルヘイムについてだが、完全に鎖国しているために情報が無い。ただ、使節団を送ったある国の報告では、とても裕福な国だとあった。
他国の文献の翻訳だから齟齬はあるかもしれないけれど、「街の民は皆親切で幸福そうであり、道端に立つ女や物乞いの類は居なかった。金の装飾が張り巡らされた城で王に謁見し、あらゆる季節の果物、鹿、猪、魚料理とパンと葡萄酒で饗された。他国に頼らずとも、自国のみで全てを賄い得る潤沢な資源を持つのだ」とあった。
あらゆる季節の果物、のあたりに、魔術の国らしい不可思議さを匂わされてはいるが、ヘルヘイムと魔術の関係、魔術とはなんなのかついては、信憑性のある文献は見つからなかった。
スキルについてはもっと酷い。
神からの贈り物という位置付けだが、それを扱った創作物などを見ると、寧ろ、それを持つものは異端者扱いで、悪魔の使いとして描写されることが多い。
なんで誰も、スキルについてきちんと調べてないのよ!
なんて、腹を立てても仕方がない。自力で調べるのは諦めた。明日の朝、教室へ行く前にフランシスを捕まえて話をしようと決めて、読んでいた本を棚へ返す。背中には、まだマリウスが張り付いていた。その腕の中で身体をくるりと反転させ、向かい合う形になって、硬い背中に手を回す。
がっちりした体型でもないのだけれど、日常的に剣を振るっているせいか、背中の筋肉は凄いんだよね。
「ありがとうございました」
「もう調べ物は終わったのか?」
「はい」
ぎゅうっと力がこもる腕の中で、素直に抱き締められておく。
「もう遅い。急いで送らせよう」
「お部屋、見られませんでした」
「見たかったのか?」
「はい。妃教育でエレナと城を訪れるたびに、マリウス様がここで生活しているのだな、とソワソワしていました」
ぐううう…… と、マリウスが呻いた。なんだ? お腹でも空いたのかな?
「クリスタが可愛い。好きだ。どうしよう。泊まる?」
「泊まりません」
「泊めたい」
「もう結婚するまでしませんよ?」
「嘘だろ!?」
「結婚前にしていることのほうがおかしいんですよ」
「でも、したじゃないか。したら、したいじゃないか」
「我慢してください」
一蹴されてマリウスが肩を落とす。ちょっと可哀想に思えてきた。
「私も我慢します」
「我慢?」
「はい」
「クリスタもしたいのか?」
「したいです」
「よし、なるべく早い日取りで結婚しよう」
「あ。私、エレナと一緒に卒業したいので、それ以降でお願いします」
「一年以上先じゃないか!」
私は、崩れ落ちたマリウスを宥めて、城を後にした。
翌日、早めに登校していたにも関わらず、フランシスを捕まえることはできなかった。学園に来なかったのだ。次の日も、その次の日も。
そして、エレナもまた、同じ日から学園に来ることは無かった。
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