ぶっちゃけ、嬉しい


 崩れるようにしゃがみ込んだ私に合わせて、マリウスもしゃがみ込んだ気配を感じる。言われた通りに黙って、まるで、ご主人様が買い物している間、きちんとお座りしてスーパーの前で待っている躾の良い犬みたいだ。


 何か言いたいけれど、何も思いつかない。両手で顔を覆ったまま黙っていると、マリウスが突然はっとして、焦りだした。


「今のは、単に、外に出せなかった理由の考察だからな。決して、身体が気に入ったからまたしたいと言っているわけじゃないのは、分かっているよな?」


 今のを聞いて、そう思わない人がいるんだろうか。


 困って顔を上げると、マリウスが心配そうにしていた。それでもやっぱり言うことを見つけられなくて、目の前の、耳も尻尾も垂らした巨体の子犬みたいな人を見つめる。


「あまり、分からない、かも、しれません……」

「分かった。身体以外のどこが好きかも言おう。そもそも見た目が好みだ。見た目といっても単に顔とか身体じゃないぞ。細い肩は好きだし、それを言ったら顔も好きだけど。そうじゃなくて、クリスタの選ぶ物や好む在り方、佇まいや所作に、趣味の良さや謙虚さ、芯の強さが……」

「待って。やっぱり大丈夫です」


 すんごい純粋な目でおかしなことを言い出したマリウスの口を、慌てて両手で押さえた。今はちょっと、あちこち大渋滞なので、整理させてほしい。言わなくちゃいけないことがあったはずだ。そもそも、問題の入り口は……


 私は、立ち上がると、すうっと息を吸い込んだ。


「外に出さなかった件についてですが、そもそもの行為が二人の合意によるものであり、私も等しく責任を有しておりましたので、その場で、指示や拒否等の意思表示で対策を取るべきでした。尚且つ、妊娠や生理が女性の身体でのみ起こる事柄であり、女性側が男性側よりも具体的主体的な知識を有するであろう事実と、行為自体がその日その時に突然決定したもので、男性側には前もって知識を得る、自身の在り方を決める等の準備期間がなかった事実を鑑みますと、女性側、つまり私が、より主導的に注意躍起すべきところを怠ったとも言えるわけで、つまり…… あの…… その…… 私は、大丈夫…… ですので……」


 尻すぼみになる。


 日和った。

 いや、日和るでしょ。


 顔面の強い推しに、具合がどうの、気持ち良くてどうのと、真剣に言われた上に、他の好きなところなるものを語り出されたのだ。そりゃもう光の速度で日和るよ。日和っちゃ駄目なんだけども。


「教室に戻ります」


 もう、マリウスの顔は見られなかった。振り返りもせず走って逃げた。


 一生懸命説得しようとしてくれたところ悪いのだけれど、実際のところ、マリウスの好意は身体に引きずられているのだと思う。

 まず、「セックス気持ち良かった。またしたい」があって、後付けで、他のところも好ましく見えているだけだろう。性欲が先行して、痘痕あばたをエクボだと思い込んでいるのだ。

 私まで浮かれて受け入れたりしたら、後で正気に戻った時に、きっとマリウスは後悔する。きっと、マリウスにがっかりされる。


 それが分かっていても、頬が熱くて、緩んで、仕方がなかった。


 駄目なんだけども…… 身体だけ気に入られて、求められても、仕方無いんだけども…… でも…… だって…… 


「なんだこんなもんか」と思われなくて良かった!




 

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