関係者各位…… ごめんなさい!
◇
あああああああああ! 馬鹿じゃないの?! 何してくれてるの!? 私っ!!
その後の出来事は、思い出すのも恥ずかしい。勝手に脳裏に浮かぶあれこれを即座に打ち消しては、「ぎゃあ!」っと叫びたくなるのを堪える。
昨夜は完全に私が悪かった。完全に私が誘っていた。何が「友人ですから」だ。エレナに申し訳なさすぎる。マリウスもマリウスだ。なんで誘いにのっているのか。断ってよ、そこは! あああああああ…… エレナごめん。もう私、一生お酒は飲まない。
後悔と狼狽が止まらない。しかし、記憶が戻ったことで、この場所がどのあたりかは分かった。
あの後、二人で会場を抜け出し、王家の馬車に乗ってここへやってきた。暗くてどんな建物なのかはよく分からなかったけれど、方角や距離からすると、我が家とそう離れていないはず。
王家の隠れ家的な別荘か何かだろうか? と考えつつ、裏口のようなものを見つけて、建物の外に出ることに成功した。誰にも遭遇しなかったことに安堵してそっとドアを開ける。と、そこにあったのは、春の花が咲き乱れる庭だった。
どこだっけ。ここ、見たことがある。
締めたドアを背に立ち尽くす。暫し庭に見入って、私は、あることに気付いて呆然とした。
見たことがあるはずだ。ここは王妃様の城だ。当時はまだ王太子だった現国王陛下が、他国から嫁いできた妻にと用意し「ここには、あなたの国のものや、好きなものだけ置いて。一人になりたくなったら、いつでもここに逃げ込んでください」と言って贈られたとか。
こぢんまりしているが、季節によって様々な花が咲き乱れる庭が見事で、花の離宮と呼ばれている。
私は外側からしか見たことがなかったけれど、よく手入された庭の様子から、王妃様がこの小さな城を大切にしているのがよく分かった。
……って!!
なんてとこに連れてくるのよ! めっちゃくちゃロマンチックな謂れの、王妃様の超プライベートな場所じゃない!? 息子にラブホ代わりにされるとか! 王妃様、泣いちゃうよ!?
思わずその場に
酔っていたとはいえ、関係各所あっちこっちに申し訳無さすぎる。どうしよう。どうすれば償えるの? これ。
ただ、幸いなことに、この離宮から我が家まではそう遠くない。歩こうと思えば歩けない距離ではないのだ。
手入れする人間もまだ居ない早朝の庭を、足音を立てないよう脱いでいた靴を握りしめたまま走り始める。またも、ドロリと出てきたもので股の間が汚される。下着の中が気持ち悪い。身体中のありえないところがあちこち痛いし怠い。でも、そんなことに構っていられない。
昨夜の経緯を忘れたままなら被害者ヅラしていたかもしれないが、思い出してしまったからには、それはできない。悪いのは私だ。マリウスだって通り魔にあったようなものだ。ううう…… マリウスにも申し訳無い。
なぜかヒロインが現れなかったこの物語では、何事もなく順当にマリウスとエレナは結婚するはずなのに。私が、ザマアされても仕方が無いくらいの不始末をしでかしてしまった。いや、いっそ、謝ってザマアされた方が罪の意識からは逃れられるかもしれない。れど、そんなの、私の気が済むだけで、誰も幸せにならない。
婚約間近の友達の恋人を寝取るとか……
いや、取ってはいないけど、浮気させてしまったわけで。しかも、初めてを奪ってしまったわけだ。そんなの絶対にやっちゃいけないことだよ。許されるわけない。最悪。
逃げるのが正しいのか自信がなかったけれど、自責の念に駆られて走り続けた私は、なんとか誰にも見つからず城の敷地から出た。そして、大通りへ出たところで、通り掛かった顔見知りを見つけた。
昔から我が家に出入りしてる八百屋のおじさんだ。近くの市場で仕入れた野菜を配達しに行くところだと言う。おじさんに頼み込んだ私は、幸いなことに馬車で我が家まで送り届けてもらうことに成功した。積み荷の野菜達の隙間で。
おかげで、さっきまでとはまた別の意味で体中が痛くなったけれど、文句は何も出てこなかった。
※ 次話から、マリウス視点で振り返ります。
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