結局仲良し×2
二人と別れた私は、人垣を探した。学園でもどこでも、王太子であるマリウスの周りには、常に人が集まっているからだ。いや、王太子だからというだけではない。マリウスの、明るくて、前向きで、ざっくばらんとした人柄が、皆を惹きつけるのだ。
あちこち歩き回り、キョロキョロと辺りを見回す。居るのは分かっているのだ。本人が行くと言っていたのだから間違いない。言っていたのは、私じゃなくエレナにだけれど。
エレナはいつも、学園の中庭でマリウスと会っていた。その場に、アリアナでもベアトリーチェでもなく、好んで私を連れて行ったのは、私が二人よりもずっと地味な見た目だからだ。
灰色の髪をした
そもそも、エレナと出会った園遊会でマリウスとも出会っていながら、これまで興味を示されることの無かった私だ。エレナの中では、「マリウスが好意を移すことの無い、安全牌」といった位置付けなのだろう。
とにかく、その日いつもの中庭で、二人はもめていた。
「私が出られないのに、どうしてマリウス様は行くのです?」
「在学中の男子生徒は皆行く。そういう伝統だ」
「婚約者のある方はその限りではないはずでしょう? 婚約こそまだですが、私達がそうなるのは皆の知るところです。それとも、マリウス様は他に
それに対する返答は聞こえなかった。
いずれ王と王妃になる二人のプライベートな会話だ。聞いてはいけないと思って、声の届かない場所まで私が移動したのだ。
それにしても、エレナは凄い。相手が王太子殿下であろうと、言いたいことを言ってしまうのだから。そういうところは、実は尊敬できるし、大好きだったりする。
暫くもめていた二人だが、聞こえる声色が緩んだようだったので二人のところへ戻ると、マリウスがエレナの額に、前髪の上から口付けしていた。結局仲が良いのだ。
そんな場面に出くわしてしまって、私は俯いた。マリウスに対する思いは、恋愛感情では無い。推しに対する羨望だ。でも、手の届くところに居るから、ちょっと心が痛むだけ。
私が近くに居ることに気付いたエレナが、珍しく慌てた様子でマリウスを軽く突き放した。
「わかりました。では、クリスタたちをよろしくお願いします。おかしな虫がつかないように、守って差し上げてください」
キスで溜飲を下げたのか、恥ずかしさから引き下がったのか、ここは大人しくマリウスを送り出すことにしたらしい。
っていうか、「クリスタたちにおかしな虫がつかないように」とは? 自分の居ないところでまで、取り巻き三人を男に近付けさせたくないのね。いや、逆に、私に対してマリウスを見張れと言っているのか?
エレナの思いを測りかねて、私は苦笑いした。
その時のことを思い出しながらマリウスを探して歩き回る内に、人気の無いバルコニーに出てしまった。
酔って火照った頬に、夜風が心地良い。
さっきは盛り上がって「玉砕覚悟でぶち当たろう」などと言ってしまったが、当たってどうするというのだろう。と、エレナとマリウスの親しげな姿を思い出して泣きそうになってきた。
どうせ一人みたいだし、泣いちゃおうかな、と思いだした頃、どやどやと複数の男性がバルコニーにやって来た。
「いいな、ここ。貸し切りだ」
暗いせいもあって、隅にいる私には気付かなかったようだ。居ないと思われているものをわざわざ出ていって挨拶するのも面倒臭い。私は、男たちが居なくなるまで隠れていようと、隣りにあった葉の茂った観葉植物の陰に身を潜めた。
「今年のデビュタントは粒揃いだな」
「でも、ヒューズ侯爵家の令嬢がいない」
「エレナ嬢は来年なんだな。目の保養だよな。あの人」
居なくても話題に上がってしまうのだからエレナはやっぱり凄いな、と再認識させられて、また凹んだ。
「物凄く気は強いけどな」
「それな」
「実際、どうなんですか? 婚約者殿」
「婚約者ではない」
聞き覚えのある声に、びくりと肩が跳ねた。やって来たのは、マリウスとその友人たちだったのだ。
「またまたぁ。もう、やることやってるんでしょ?」
「おい、お前らの相手と一緒にするな。侯爵家の御令嬢が結婚前に許してくれるわけ無いし、マリウス様にしても、そう簡単にできるか」
「結婚するまで街の女で我慢ですか?」
「それこそ無理だろ」
「じゃあ、結婚しての初夜は初めて同士になるんですね。大丈夫ですか? 手間取ると、エレナ嬢キレるんじゃないですか?」
「溜め息をつかれるか、舌打ちされるか」
「うわ。やりそう。凹むな」
女の目が無い場所での、単なる男達の猥談だ。そうは思っても、デリカシーの無い話題でエレナをネタにゲラゲラ笑う男どもに、ムカつきが止まらない。
日頃からエレナの我侭に振り回されている私たち取り巻きが愚痴るのとは、わけが違う。あなたたちがエレナの何を知ってるって言うのよ!
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