第21話

 カズマはモーテルの外壁にもたれかかり、巻紙の上にマリファナと煙草を一対一の比で混ぜ、それを中心に集めて巻き上げる。紙の端をさっと舐め、糊のついた紙の端を貼り付けるとジョイントの完成だ。キレイに巻けた自分を誇らしく思い見上げた空にはいくつか星と大きな月が見えた。地面より空の方が明るいのは新鮮だった。


 早速ジョイントに火をつけ、思い切り吸いこんで息を止めると思わず大きく何度も咳き込んでしまう。久しぶりだからかもしれない。すぐに真後ろで強く窓を閉める音がした。エドウィンだろうーなんて愛想のないヤツだ。父ジェフとは出会ってすぐに同じジョイントを回し吸いしたというのに。


 三服ほど吸うとちょうど良い具合に酩酊してきた。頭の中で絡まった糸が解け、五感が研ぎ澄まされてくる。昔は毎日の様に吸っていたのに、気づけば日々の生活に追われていた。何となしに眺める星にシャーロットの顔が重なる。彼女とまた上手くやり直すことはできるのだろうかー


 ジョイントが半分になったところで地面にもみ消して、吸いさしをポケットに入れて部屋に戻った。すぐにエドウィンが真剣な顔でカズマの方を向いた。


「ちょっとやばいですよ、カズマさん。さっきの連中」


 エドウィンの声がいつもより低く聞こえた。彼が指さした先のテレビの画面には、ロニーとルーシーの顔写真が出ていた。


テロップ:「失敗したボニーとクライド」

「二人は一時逃亡をはかりましたが、結局パートナーのルーシー•ブラックが警察に通報、二時間後に近くのモーテルでロニー・サイズモアが逮捕されました」


 テレビの中で女性のアンカーが淡々と事実だけを伝える。


「これ、どういう事?」

 カズマは酩酊したまま何とか頭を整理しようとするが回らない。


「二人でファミレスを襲いにかかったみたいです。パルプフィクションの冒頭みたいに、銃構えて。監視カメラの映像見逃しましたね。結局現金持ったまま逃げて近くのモーテルで逮捕」


 エドウィンの言葉がしっかり認識できないが、その事実は映像によってカズマの脳にインプットされ、心臓をかき乱した。刑務所の独房にいるロニーの姿をリアルに想像してしまう。終わりの見えない孤独―彼がこれから味わうであろう感覚を、まるで自分が今味わっているかの様に感じた。気づかぬうちに目に涙が溜まっていた。


「まったく、なんであんな危ない連中拾ったんですか?」

 エドウィンは少し声を荒げる。そしてカズマの歪んだ顔に気づく。


「なんで?もしかして、同情してるんですか?あの強盗犯に?」

(そうか、オレは同情しているのか)


 カズマは初めて自覚した。自分の愛もうまく伝えられず、彼女のためにリスクを冒した挙句、結局裏切られてしまったロニーに深く共感と同情の気持ちを抱いていることに。


 カズマは自分の感情を隠すように自分のベッドに潜り込み、エドウィンに背を向けた。そしてシャーロットの事を思った。マリファナの効能なのか、彼女との記憶が溢れ出すように頭の中に浮かんでくる―彼女と出会ったのは何年前だっけ―。

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