第2話 💙ホワイトデー🍌

「おはようございます! 主任ー! 起きていますかー?」


カメラを必死に覗き込むのは、ゆるふわパーマと糸目が特徴的な犬嶋犬太いぬじまけんただ。


紺色のジャケットにカッターシャツ、下はそれに合わせた灰色のスラックスと茶色の革靴履いており、その手には黒のビジネスバッグを持っている。


「こら、騒がしいですよ! 犬太。朝早くにすみません。ゴリラ主任」


その横で注意しているのは、さらっとした容姿と端正な顔立ちに、センター分けのサラサラな髪質が特徴の佐久間熊さくまゆう主任。


襟元がパリッとしているカッターシャツに、上下ともに全くシワのない光沢感がある灰色のスーツを着ており、肩がけタイプの黒ビジネスバッグ、そして黒色の革靴を履いている。


「す、すみません……ついテンション上がってしまって」


犬太は肩を落とす。


「ふふっ、まぁ、なんだ。元気なのはいいことだ! そう怒らんでやってくれ、熊くん」 


その後ろから声を掛けるのは、小柄で少し頬がコケた頭に老眼鏡を乗せているのが、印象的な雉島千鳥きじしまちどり課長代理だ。


その服装は、スタンダードな紺色のスーツ姿に茶色の革靴、そして熊主任同様、肩がけタイプのビジネスバッグを持っている。



「は、はぁ……課長がそう仰るのでしたら」

「うむ、犬嶋くんもあんまりはしゃぎ過ぎんようにな」

「……は、はいっす! そうですよね……次からは気をつけます!」


「あの、皆さん。ここは住宅地ですし、もう少し静かにされた方がいいと思いますよ?」


賑やかなやり取りを続ける3人の後ろから、少し呆れたトーンで声を掛けるのは、ダークブラウンの髪色にふんわりとしたボブヘアが特徴の小柄な女性社員、山川すもも。


その服装は、黒のブラウスにライトグレーのジャケット羽織り、それに合わせた同系色のパンツと黒のパンプスを履いている。


「いや、でもここって僕らの会社の土地ですよね?」


犬太の何も考えていないというよりは、包み隠さない本音にすももはため息をついて、その上司である雉島課長と熊主任の方に鋭い視線を向けた。


「そういうことではないんですけど……」


彼女は、ゴリラ相手にも物怖じしないだけあって、立場が上となる雉島課長代理、熊主任の2人を前にしても全く緊張していない。


寧ろ立場が上であるはずの2人が顔を見合わせて渋い顔をしていた。


「あはは……若いからな、うん」

「雉島課長代理……若いで片付けるには無茶があるかと――」


しかし、問題の発言をした犬太は、何がいけなかったのか全くわかっていない。


「えっ!? 僕、なんかおかしなこと言いましたっけ?」


申し訳無さそうな顔をしている上司2人にその理由を聞いている始末だ。


そんな犬太を前にして、すももは淡々と良くないことを述べていく。


「えーっと。ゴリラさんの部下でしたら、もう少し色々とお考えになった方がいいかと。いくら会社が買ったとしても、近隣住民の皆さんに迷惑を掛けてしまっては会社の評判は落ちますからね」


普通の人であれば、凹むか不貞腐れるところなのだが、犬太はあのゴリラの部下。


素直さであれば、もうゴリラと遜色ない。


「あ、なるほどっす! 確かにそうっすよね……」


彼女の言葉を真っ直ぐに受け取ると「うん」とゆっくりと頷くと「もう少し考えて物を言うべきでした! すみません!」といい勢いよく頭を下げた。


その一部始終を見ていた雉島課長と熊主任は苦笑いを浮かべていた。


「あはは……山川くんには敵わんな……」

「ですね……私としたことがすみません」

「いや、それを言うなら私にも責任があるだろう」


2人が自分たちの責任について話していると、犬太が大きな声をあげた。


「待って下さいっす! それなら僕が一番だめだと思います」


まるでやまびこのように響く声。


すももは、そんな3人に冷たい視線を向けた。


「――あの? もしかしてふざけています?」

「あはは……」

「いえ、すみません」

「あ! デカい声を出してしまったっす……すみません……」


彼女は自身を前にして頭を下げる彼らに、僅かに微笑むと話を切り替えて、家に訪ねてきた理由をゴリラへと説明した。


「――ということです」

《ウホウホ》

「はい、渡すだけですので開けてもらうだけで大丈夫です」

《ウホー!》


すももたちが来た理由は、どうしてもゴリラへ渡したい物があるからだった。




🍌🍌🍌




――話し終えたゴリラが扉を開けた時。



そこには誰もおらず、目の前に大きな黄色い箱があった。


「ウホウホ?」


ゴリラはきょろきょろと周囲を確認する。


だが、やはり周囲に人影は見当たらない。


不思議に思いながらも彼は目の前に置いてある箱を手に取ると、そこには職場全員からのメッセージが書かれた寄せ書きが挟まれていた。


「ウ、ウホ……」


紙いっぱいに部署関係なく、ゴリラが関わってきた人たちからの感謝の言葉と労いの言葉に溢れている。


「ウホウホー! ウホウホー!」


皆からのメッセージが嬉し過ぎて、反射的にドラミングをしてしまう。


そのつぶらな瞳は少し潤んでいる。


エレベーターが1階へと到着する音と同時に犬太の声が響いた。


「主任ー! それ僕たちからのホワイトデーのプレゼントっすー!」


1階から大きな声を上げるのは、先ほどまで6階にいた犬嶋犬太、ゴリラに向けて手を振っており、プレゼントを渡せたのが、よっぽど嬉しいようで、満面の笑みを浮かべている。


その横で注意するのは佐久間主任、彼は注意してもなかなか大声をやめない犬太に戸惑っていた。


「こ、こら、犬太! 声が大きいぞ」

「あ、すみません!」


だが、悪気ない犬太は注意された瞬間に頭を下げる。


そんな2人の後ろに居ている雉島課長代理は、自分たちから少し離れて立っている山川すももに声を掛けた。


「あはは、まぁサプライズ成功したわけだし、いいんじゃないか? 今くらいは――」


「……そうですね。これを注意するとなるとゴリラ主任にも注意しないといけなくなるので、今回はお咎めなしということで」


その言葉を聞いて安堵する一同。


「では、いくとするか」

「はい、もう出社しないと不味いですしね」

「本当っすね! もうこんな時間ですよ!」


犬太がポケットに入れていたスマホを確認する。


スマホの画面は【7時00分】を表示していた。


「私は、先に行きます」


工程管理課に所属する3人を置いてすももは、すたすたと歩いていく。


「わっ――」


だが、何もないところで躓くと、その動きを止めて、ゆっくりと振り返り「見ましたね……」といい顔を真っ赤にして逃げるように会社へと向かっていった。


「あれは、僕らが悪かったんっすかね……?」

「いや、あれは悪くない」

「うむ……悪くないな……コホン! まぁ、その仕事が待っているからな――」

「そうですね……いきましょう」

「えっ、あ、ちょちょっと! ではー! 主任ー! 午後にー!」

「ウホー!」


こうして、彼らはすももに少し遅れて会社へと向かっていった――。




🦍🦍🦍




――20分後。


時刻【7時20分】


6階の一番角部屋、数個のバナナラックに掛けられたバナナから甘いの香りが漂うゴリラ自室。


壁の色は、ダイニングキッチンと同じく白色をしており、窓が1つとそこにはマスカット色がベースの所々にバナナが刺繍されたカーテンがつけられている。

そして、木製の作業机があり、その上には自社のノートパソコンとプリンタが1機置いている作業部屋。


残りの作業を終えたゴリラは、みんなからもらった黄色い大きな箱を開けた。


「ウ、ウホッ!!」


その中には、新しい大きなバナナの抱き枕が入っており、大きさは160cmとゴリラが抱きついて寝るにはぴったりのサイズだ。


「ウホウホ! ウホウホー!」


ゴリラは嬉しくて子供のようにその場ではしゃぐ。


それもそのはずで、ダイエットを開始した際に愛用していたバナナの抱き枕を噛ってしまいボロボロとなっており、捨てることはなくても、少し悲しい気持ちになっていたから。


そんな中、新しいバナナの抱き枕が大好きなバナ友の皆からプレゼントされたのだ。


「……ウホゥ」


ゴリラは、そのバナナの抱き枕をぎゅっと力強く抱き締めると、幸せそうなあたたかい笑顔を浮かべた。


「ウホウホ」



――そして、この後。



いつもように午後から出社して、可愛いラッピングをしたバナナを配り回るゴリラの姿があちらこちらで目撃されましたとさ。



🍌🍌🍌🍌🍌🍌🍌

🍌 ウホウホー!🍌

🍌🍌🍌🍌🍌🍌🍌



―――――――――――――――――――――――



作者のほしのしずくです🌟


まずは拙い文章を読んで頂きありがとうございました✨

KAC20243のお題『箱』で主任の日常を切り取ってみました🖊🦍✨


なんというか難しいですね😂😂😂


誤字ってそうだな……と不安を覚えつつも、読んだ皆さんがほっこりして頂けたら嬉しいです( ˙꒳​˙ᐢ )ウホッ🍌

いつも感謝を🍌🍌🍌

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ゴリラ物語PART9🦍🍌✨ 〜💙ホワイトデー🌸とある『箱』〜 ほしのしずく @hosinosizuku0723

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