アメリカ留学に行っていた幼馴染が同人誌にハマっていた!

朱之ユク

第1話 アメリカ留学から粗大ごみが帰ってきた

 アメリカ留学に行っていた粗大ごみが日本に帰ってきた。


「ただいまー! 久しぶり! youも元気だった?」

「元気だったよ。楓も元気だった?」

「イグザクトリー! あったり前でしょ。fineに決まっているじゃない」


 失礼。

 さすがに一人の少女を粗大ごみと表現するのは良くなかったかもしれない。だけど、俺――コウキがこれを言うのは理由がある。


「さあ! コウキ、さっそくだけど、coke買ってきてよ。あと、私の好きなお菓子と筆記用具もね。あとあと、私今日泊るところないから家に泊まらせて?」


 優しく頼んでもかわいくないからな?

 皆さんもご存じ。

 この粗大ごみ、じゃなかった。この日暮楓という女の子はずっと昔から俺のことを都合のいい男だと勘違いしている。

 たかが隣の家に生まれた幼馴染という存在。

 それなのに、彼女は俺を使用人と考えてこき使ってきた。

 今だってわざわざ空港のロビーで出迎えてやったのに、どうしてこんな態度を取られる必要があるんだ。

 悔しい。

 あと、楓はどうしてところどころ英語が混じってるんだ? さすがにちょっとウザいぞ。


「はいはい」

「あと私足が痛いからお姫様だっこしてよ!」


 こういうふうに金髪に染まった美しい顔を見せびらかしながら彼女は俺に命令をしてくるんだ。

 昔から嫌だった。もうちょっとくらい人の気持ちを考えてみればいいと思う。


「えー(嫌そうな顔)」

「なんでそんなに嫌そうなの?」


 だって重いし。だけどそれを口に出したらとんでもなく怒るだろうから黙っておこう。これこそが紳士のやり方である。


「はいはい。これだから日本の男は。アメリカだったら私が困ってたら全員が助けてくれたよ? そんなこともできないの?」


 恨むぞ、アメリカの男よ。

 妄想の中でアメリカ人に殴りかかって見事に反撃される自分を想像した後、仕方なく楓をお姫様抱っこしてあげる。

 その時に異変に気付いた。


「うぅ」

「……? どうしたの?」


 心配そうな顔で俺のことを眺めているけど、心配いらないよ。ちょっと楓の体重が重くなりすぎていただけだから。

 足腰の力を入れて、本気で持ち上げる。

 だけど、力を入れすぎて、楓の胸とお尻の思いっきり掴んでいた。


「変態!」


 そう言われても仕方ないんだ。そもそもの問題は君が重くなりすぎているのが原因なんだから。


「ちょっと、そんなに力強く揉まれたら」

「まさか気持ちいいの?」

「違うわバカ! めっちゃ痛いんだけど!」


 アメリカのものを食べ過ぎてデカくなりすぎたんだろう。仕方ない。ここは俺の方が折れるしかないか。


「悪い。今ちょっと筋肉痛なんだ。降りてくれない?」

「……まあ、いいわよ(コウキの体温は感じられたし)」


 楓はちょっと不満そうな顔をしたけど、しっかりと降りてくれる。周りの人の視線がちょっと気になるけど、今は我慢の時だ。


「ねえ、コウキ。そんなに筋肉痛が酷いの? 私ってそんなに重くないでしょ? 体重は40キロ台だったし」

「そうだね」


 嘘つけ。体重40キロ台の女があそこまで重量があるわけないだろ。


「それじゃあ、そんなコウキに筋肉痛を忘れられるあるものを渡そうと思うの」

「? あるもの?」

「そうよ!」


 そう言って人混みも気にせずに楓はとあるものを取り出して、俺に見せてきた。

 これは――。


「同人誌?」

「そうよ! すごいでしょ! なぜかアメリカのメルカリ的なサイトで売ってた日本の同人誌よ!」


 いや、どうしてそんなものが? っていうか、その同人誌完全にエロ同人誌じゃん。なんかやたら煽情的だし、完全に表紙の女の子は下半身が丸見えである。


「なんか嫌だわ」

「え? この本嫌なの?」


 言っておくけど、君のことだぞ。


「それでエロ同人誌でどうすればいいの? どうしようもないじゃん。それともトイレに行ってしてこればいいの?」

「バカね。してくるだけなら私がいるじゃない」


 ???

 今の言葉になにか違和感を感じてしまった。してくるだけなら私がいるじゃない?


「だからこの本を一度読んでみて? きっと楽しいよ」


 ふっふっふと笑っているが俺の頭には良く入ってこない。先ほどの言葉で脳が破壊されてしまった。

 でも一応本を読んでみよう。

 なにか脳が冷めて情報を処理しやすくなるかもしれない。


「えっと、どれどれ?」

「ふふふん。面白そうでしょ?」


 ……。

 ゴミみたいな寝取られ物じゃないか。


「楓。お前はいつからNTRものの作品が好きになったんだ?」

「ん? NTR? よくわからないけど、その本のこと?」

「当たり前だろ?」


 よくもこんなものを読ませてくれたな。

 NTRなんて大嫌いなのに、どうしてこう変なものを見せられないといけないんだ。しかも、NTRでもあり快楽堕ちものでもある。

 畜生。

 脳みそが破壊されてしまった。

 唯一の良心といえばBSSものではなかったというものか。それがあるのとないのでは全く違う。

 NTRはまだ脳が破壊されてしまうだけで済むけど、BSSは本当にみじめな気持ちになってしまうから。


「ふふん。面白いでしょ。私は特に竿役の男が大……」


 この女。やっぱりデカい方が好きなのか?

 こういう漫画では竿役はありえないくらいデカい風に描かれることがある。それが現実であると思っているのか?


「私は特に竿役の男が大嫌いなんだよね。めっちゃムカつくって感じがするの」

「同感だ。ちなみにどうしてこんな同人誌を持ってきたんだ?」

「……えっ? それはちょっと言いたくないかも」


 ? 忘れていたけど、この同人誌をたまたま買ったと言っていたな。そう言うことなら問題ない。たまたま見つけた同人誌がこんな粗悪品だったら俺は激怒するけどな。


「ちなみにどれくらい内容が良かった?」


 良いところなどないと言いたいところだけど、楓の目を見ているとこれは褒めてほしい時の目をしている。

 これはきっと自分が良いものを見つけたことを褒めてほしいに違いない。

 仕方ないから褒めてあげよう。


「えっと、とにかく途中までの純愛物風の展開から一気に快楽堕ちにするのはよかったと思うよ。人妻が落ちる姿は一定数の需要がある。だけど、それを為しにするくらいのとんでもないレベルの竿役の嫌悪感を引き立たせる行動だ。見た目をチャラ男にして寝取らせればいいというものじゃない。いいかい? チャラ男は妻にスマホで電話させるとか最低なことを言っていればいいのに、どうしてこの漫画では情けなくなるようなことして言ってないんだ? これでは絶対にダメだ。良いからこの竿役をどうにかしろ」

「……うんうん」

 

 楓はすぐにスマホを取り出して俺の言ったことを完璧にメモしてくる。そんなに気になる?


「感想ありがとう。ごめんね。そんなに悪い気分にさせるものを作っちゃって」

「あ、いや、何でもないよ」


 さすがにちょっと言い過ぎたかな? でもこれを読んだらみんな同じような感想を抱くと思うけどな。


「でも呼んでくれてありがとう。お詫びと言ったらなんだけど、この同人誌を見せたほとんどの人がこの竿役の男をある表現をしたんだ。なんだと思う?」

 

 楓はちょっとショックを受けた様子で俺にそう言ってくる。

 竿役?

 何だろう?


「それってなに?」


 この時の俺はちょっとした好奇心のつもりで聞いていた。つまり、まったく適当に聞いていた。

 だけど、これが運命を感じることになるとは思っていない。


「その表現って言うのは――」


 楓の口が開いて、言った。


「『粗大ごみ』って言われているんだけど……」


 徐々にすぼんでいく楓の口。しかし、それと同時に俺は衝撃を受けていた。

 その衝撃で俺はその場に倒れ込んだ。

 だって、そうだろう?

 楓がアメリカ留学から粗大ごみを持ち帰って来たんだから。

 





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