第4話 仲間


 藤ヶ谷ふじがや春花はるかはダンジョン出現から3週間後に退院した。


 家族が迎えに来たが、家族の表情は暗い。

 理由はひとつ。

 春花が社会不適合者だからだ。まだ、学生だが。

 高校にここ1年近く通うことができていない。

 大学に進むか、就職する、すらも決めれていない。

 したいことがない。やる気がでない。課題や授業をリモートで特別に受けてはいるため成績は悪くはないが、主体性がない。

 やれと言われたことはやるが、そこまでだ。


~~~~~~~~

 

 だが、一つだけハマっていたことがあった。

 自分だけのキャラを作り、育成し、攻略を進めるゲームだ。

 ソシャゲの一つで、恐ろしいほどにギガを使う。

 ゲームとしてのクオリティは高いが、課金要素はなく、ただただ時間をかけて、効率よくキャラを育成しダンジョンや未開拓の土地を攻略する。

 配信者たちも最初はやっていたが、そこそこで止まってしまった。

 配信者たちがやらなくなったためどんどんプレイヤーは廃れていった。

 

 春花は飽きずに寝る間も惜しんでキャラを育成した。

 数字は嘘をつかない。

 一つレベルが足りなかったり、ステータスの構成が悪かったりで敵を倒せなくなるが、そこをどう攻略するかが醍醐味だった。


 しかし、アップデートを重ねることでスマホの容量が足りなくなり、新たな機種を購入しに久しぶりに家を出た日、その日に大地震、ダンジョンが出現した。



 スマホを購入しに街の大通りを歩いていたとき、地震が起きた。

 周りにいた人はパニックになりうるさい。

 建物が崩れる。

 誰かが下敷きにでもなったのか助けてと声を上げる。


 一人の男性が瓦礫の下敷きになっていた。

 すぐさま持てる瓦礫をよけ、男性の救出に成功した。

 プロレスラー、いやボディビルダーかと思うほどの筋肉を持っていた男性で、助けなくても自力で行けそうな気がしなくもなかったが。

 

「助かった。オレは赤瀬あかせ直人なおとだ。危うく死ぬとこだったぜ。華奢な体なのに力あるな」

「俺は藤ヶ谷春花。こんななりだけど握力48kgあるよ」

 補足、平均男性の握力が47kgである。高校生だと42㎏ほど。

「ふはっ。オレは96だ! どうだ?」

「……俺の助けいった? それ?」

「おう! いや~、背中の瓦礫は頑張ったらどけれそうだったんだが、足がな、なんかパイプみたいのに挟まったらしく動けなかったんだよな。背中の瓦礫をどけてくれた分、足の方に力入れれたからほんとうに助かったわ」

「そう。ならよかった」


 どう見ても、素晴らしい肉体をしている。レスキュー隊みたい。いや、ここまで筋肉がすごければ邪魔になりそうだ。

 

「ああ~、それでなんだが。地震の前に、子連れの妊婦さんを見かけてな。地震の影響で被害を負ってないか見たいんだ。ついてきてもらえるか? お前がいれば瓦礫の撤去もすぐに済む気がする」


 そういわれれば、悪い気はしない。

 こんな状況だ。お店も閉まるだろう。

 家に急いで帰りたいわけでもないし。


「良いよ。教えて。危ないなら助けないと」

「助かる。おそらくそんな遠くには行ってないはずだ。無事だといいんだが。こっちだ」


 赤瀬さんについていく。

 瓦礫が回りのビルはそこまで倒壊していない。日本の対策が近年ちゃんとしてきているからだろう。

 しかし、見えてしまった。

 三階建てだろうか。飲食店と思わしき建物が崩れている。瓦礫が歩道まで覆っている。

 これは女性の声だろうか。

「大丈夫か!!」

 赤瀬さんが声を張りあげる。


「た、助けてください!! 息子が!! 瓦礫の下に!!」

「おう!! 奥さん、妊婦だな。少し離れていてくれ。すぐに助けてみせる」

「ありがとうございます!!」


 赤瀬さんと瓦礫をどけていく。

 息子くんは外から確認できない。まだ下にいるみたいだ。

 下にいた場合、瓦礫に乗るとその分負荷がかかるため、端から少しずつどけていく。

「大丈夫か!! 聞こえたら返事をくれ!!」

 返事はない。危ない状況かもしれない。

 急いで瓦礫をどける。

 小さな手が出てきた。傷はついているが出血は見られない。

「赤瀬さんいた!」

「おう、声をかけ続けてくれ、それと救急車も呼んでくれ」

「了解。救急車はすでに呼んだ。もう少しで来るはず」

「サンキュー、それまでに瓦礫から出すぞ」

「うん」


 大きい瓦礫は赤瀬さんが。小さい、邪魔になりそうな瓦礫は俺が退ける。

 声をかけ続けるが、返事はない。

 上半身が出てきたので、二人で引っ張る。

 大丈夫。挟まっている部分はないみたいだ。

「せ~のっ!!」

 どこからの出血も見られない。

 しかし、昏倒しているため、頭を強く打ったのかもしれない。心拍は少し弱い。


「奥さん!! 息子さんは無事だ!! すぐに救急車が来るから!! 安心していいぜ!!」

 

 それからすぐに救急車が来た。

 担架に息子くんを乗せて病院へと向かった。こんな状況だ。救急隊員も大変だ。


「助かったな」

「そうだといいね」

「おう、それでもう少し、周りを見てきたいんだが、どうだ?」

「聞かないでいいよ。危ない人を助けるんでしょ、ついていくよ」

「サンキュー。助かる」



 大通りまでの道に声を上げている人はいなかった。

 みんな避難したみたいだ。

 俺たちもそろそろ避難しないと。


 まあ、赤瀬さんがやる気だからついていくけど。

 

 

 大通りに出てから驚愕した。

 いつもは人が混み合っているスクランブル交差点の真ん中に巨大な鳥居が立っていた。

 見るからにヤバそうな雰囲気だ。

「……なんだありゃあ」

「今までなかったよね?」


 見るからにヤバそうなのに、鳥居に向かう男性2組を見かけた。

「何してるんだよ、あいつらは……」

 

 そして、男性2組は鳥居の中に入っていった。

「何してるんだよ!! あいつらは!!」


 俺たちも追いかけて鳥居を潜った。






 


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ダンジョンが出現したので、やる気出す 咲春藤華 @2sakiha

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