第12話:最後の光、運命の影(1/3)
扉を叩く音が絶え間なく響き渡る。レンが隠れた場所は、村人たちに見つかり、彼らは確実にその扉を破壊しようとしている。ただし、あえてすぐには破壊せず恐れ慄くのを楽しんでいるかのように、執拗に扉を叩くことが続く。かつて心優しかった村の人々が、憑依召喚の魔導書の力によって変わり果ててしまった。親切だった丸江姉さんや、柔和な笑顔が印象的だった雪音さんまでもが、認識不能なほどに変貌してしまっていた。
戦闘経験が豊富な村人たちに囲まれ、レンは翔子を守る力を切望する。翔子は重傷を負っており、逃げ場もなく、彼らに対抗する術もない。絶望的な状況の中で、レンは翔子を守るためなら自分がどんな犠牲を払っても構わないと覚悟を決める。翔子を失うことは考えられず、彼女はレンにとってかけがえのない存在だ。
重傷を負い、体も動かなくなったレンに残された唯一の選択肢は、憑依召喚の魔導書を使うことだった。それは村人たちと同じ運命を辿るリスクを伴うが、レンはそれでも翔子を守るためならと決意する。ルナと翔子の制止を振り切り、魔導書を使うことを選ぶ。
「死ぬためじゃない……俺と翔子の未来のためだ……翔子、俺は絶対に死なない」
翔子の瞳は、切実な願いを訴えるかのように儚く、そのまなざしは深い悲しみが心から滲み出て切望を物語っていた。
彼女はレンに魔導書の力を使わせたくなかった、彼を失うことを何よりも恐れていた。その強い思いがレンを温かく包み込む。彼がなぜ一人で全てを背負い込もうとするのか、その深い犠牲精神はどこからくるのか、彼の苦難に終わりはあるのだろうか。翔子の目からは止まることを知らない涙が流れ落ちた。
「蓮司……」彼女の声は震えていた。
ルナも心配そうにレンを見つめ、彼の決意を問い直す。「ねえ、レン。本当に……やるの?」レンは時間がないと返答し、ルナは渋々魔導書を彼に手渡す。ルナはレンの危険な選択を止めたいと思いつつも、彼の強い意志を尊重した。魔導書の力は大きいが、それは召喚された存在に支配されるリスクを伴う。ルナはレンを大切に思うがゆえに、その選択を受け入れ、魔導書を渡す。
レンは魔導書を胸に当て、周囲と同化するかのようにその力を体内に吸収した。力を得た感覚と共に、彼はまだ戦えるという確信を得る。そして、彼には自ずと次に何をすべきかが明確になる。彼は胸に手を当て、力強く召喚の呪文を唱える。
「来いっ!」
その瞬間、世界が揺れるかのような強烈な落雷が発生し、村人たちは混乱する。そして、空が割れるような大きな変動が起こり、月光が屋根を突き破りレンを照らす。
光の防護膜がレンを中心に展開され、直径二メートル以内の空間は、誰にも侵入できない聖域となった。この金色の粒子で形成された壁は、ルナや翔子さえも近づけないほどの強固な防御を誇った。レンはその中で、毛布に包まれたような温かさと安心感を感じていた。
静寂の中、黒着物を纏い、黒い翼を持つ絶世の美女がゆっくりと降り立った。彼女の長い黒髪と妖艶な唇、そしてその圧倒的な存在感は、暗黒の女神のようだった。
彼女、月読命はレンを睥睨し、「わらわを呼び出したのは――お主か?」と問いかける。レンの返答はたどたどしくも確かなものだった。「あ……あ、そう……だ」
月読命はレンの決意に内心で称賛を送りながら、「ふふふ……なるほど『良い眼』をしておる。それにしても酷い負傷であるな」とレンの状態を見て取る。レンの願いは単純だった。「俺に……力を……貸して……くれ」
彼女はレンの真剣な眼差しを受け、「誓約は、知っておるな?」と確認する。レンの答えは、その重大な決断を示すものだった。「あ……あ……」
「ならばその誓約に従う。間違いないか?」月読命の問いに、レンは全てを賭ける覚悟を決める。「あ……あ、間……違い……ない」
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