第9話:意思の静寂と憑依者の脈動(5/10)

 レンは、村人たちが悪魔の誘導に従う行動の中で、自らの意志が不確かな状態にあることを問題視する。「彼らの行動が、自分自身の意志からくるものなのか、それとも悪魔の誘導なのか、その境界線がわからないな……。それが、悪魔との戦いの難しさなんだろうな」


 ルナは、レンが抱える疑問と不安に対し、「悪魔は異なる次元からの魔力保持者よ。彼らの甘言に惑わされ、自分の意志であると信じ込んでしまうことが、この悲劇を招いているのよ」と説明する。


 レンは思索を巡らせる。「魔導書の使用が俺たちの存在をどう変えるか、その答えを探さなければ……」。そうして、ルナと共にさらなる議論を深め、問題解決へと進む。

 

「悪魔の誘導と自分の意志をどう見分ければいい?」とレンは疑問を投げかける。


 ルナはそれに答える。「自分の意志と悪魔の誘導の区別は難しいわ。悪魔は私たちの欲望を利用して自分の意志であると錯覚させるの。だけど、その過程で起こる異常な階位の上昇や制御できない行動は、悪魔の影響の明らかな兆候よ」と。


 この会話を通じて、レンは悪魔とのかかわりがもたらす危険性と、それに抗うための自己認識の大切さを理解する。「常に自分の行動を問い直すことが、悪魔の誘導から自己を守る方法かもしれない」と彼は自身に言い聞かせる。


 ルナの話から、悪魔との直接的な対話がどのようにして行われたのか、そしてその中で悪魔が自らを異次元の存在であると明かしたことに、レンは大きな興味を抱く。「悪魔という存在が、本当に異なる次元から来ているなら、俺たちが直面している問題は、ただの力の探求以上のものだな」と彼は深く感じた。


 そして、悪魔の誘導に乗じて行われた行為、特に自分の手によるものと信じ込みたい山口のような人々の苦悩についても、新たな視点から考えることになる。



 レンは翌日、悪魔の誘導により他の探索者を殺害してしまった山口の話を耳にし、その衝撃から立ち直れずにいた。「山口が、悪魔の誘導で……本当に人を殺めてしまったんだ」まさに彼から助言を聞いたばかりだったのにだ。


 確か三日間は制御下に置かれると言っていたにもかかわらず、なぜか自身の意思で村に帰れたと言う。そして今は、制御が解かれているのが謎だった。


 悪魔の誘導下で起きた殺人事件は、山口が狂気の淵を彷徨っていることを示していた。レンは、山口の心情を理解しようと努めながら、彼の言葉に耳を傾けた。「この異世界では、力さえあればすべてが解決すると信じ込まされてしまうんだ……」と山口は言い、その目には迷いと苦悩が浮かんでいた。


 山口の心の中には、スキルを使うことへの執着が根深く、それが彼の行動を支配していた。言うなれば『スキル依存症』とも言える。あと少し使えば階位が上がるかもしれない。あと少し使えばを繰り返してしまう。

 悪魔の囁きによって、山口は自分の意志で行動していると錯覚していたが、実際には憑依召喚の魔導書の誓約によって、彼の体は徐々に悪魔に支配されていったのだ。


 ルナは、この問題について深い理解を示し、「悪魔は人の弱みにつけ込み、彼らが自分の行動を自分の意志だと思い込むように誘導するの。そして、その誘導は非常に巧妙で、気づいたときにはもう遅いのよ」とレンに説明した。

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